意義ある判決!?市に賠償命令・差押解除怠る
こんにちは。福岡市西区姪浜の司法書士井手誠です。
最近は、出勤前にNHKの「0655」を見るのが日課になっています。
番組の中に“今日の選択”というコンテンツがありますが、毎回そうだよね~と共感しつつ、人生何が起きても、それは自分の選択でそうなった必然の出来事なんだと思うようになりました。幸運が訪れても、偶然ではなく、自分で引き寄せたモノなんでしょう。すべての事象は自分の選択と行動が生む、胸に刻みます。
司法書士会の掲示板に、9/9の中部地方新聞各社の記事が転載されていました。
内容は…
2014年9月9日 中日新聞 記事
浜松市に賠償命令 差し押さえ解除怠る 地裁浜松支部
[死亡した税金滞納者の不動産を浜松市が差し押さえ続けたため、清算業務が妨害されたとして、相続財産管理人を務める司法書士が市に損害賠償を求めた訴訟で、静岡地裁浜松支部は8日、市に110万円の支払を命じた。
古谷健二裁判長は、「市の徴税員は、差し押さえを解除する義務があることを認識すべきだったが、漫然と怠った」と指摘した。該当する不動産には住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)などの優先債権があり、「少なくとも2013年2月5日以降に売却しても、すでに市には配当の見込みがないことは認識できたはずだ」と述べた。
訴訟は、相続財産管理人が国税徴収法に基づいて市に不動産差し押さえの解除を求めたが拒まれ、任意売却が妨げられたと訴えた。判決を受け、原告で相続財産管理人を務める司法書士の榛葉隆雄さんは「任意売却できれば債権者への配当も増える。市が履行を怠っていたとする価値のある判決だ」と話した。
市は、「判決の内容を確認し、顧問弁護士と協議し、対応を決めます」とのコメントを出した。]
これだけだと意味不明だと思いますので、ちょっと解説しますと、
税金滞納者は、最終的には行政側(国、県、市、町など)から財産の差し押さえを受けます。
不動産や預貯金が最たるものです。
で、不動産を差し押さえた場合、その不動産を競売で売却することができます。
とは言っても、競売で売却しても売買金額が低いことから、通常は少しでも多くお金を回収できるよう任意売却(普通の売買です)を行うことの方が多いのです。
ここで、一つ問題が生じます。
不動産、特に住居の場合は、購入時の住宅ローン債権を担保するために金融機関が抵当権などの権利を設定しており、この金融機関が優先的にお金を回収する権利を持っているということです。このことにより、滞納している税金を全額回収することが困難になっているのです。
例えば、滞納税額200万、住宅ローンの未払金800万があった場合に、競売で600万円で売れたとき、金融機関が600万円をまるまるもらえます。
このケースで、任意売却すると800万円で買うという人がいたとしましょう。この場合、金融機関は、600万より多く回収できますよね。しかし、自分の後ろに行政が差し押さえをしているので、これを消さないと買主は不動産を買えません。だから、行政に差し押さえを解除(取り下げ)してもらうために、俗に「ハンコ代」と称して、50万円を支払うから解除してくれませんか、などと持ちかけるわけです。
そうすると、任意売却した場合は、競売した場合と較べて、金融機関は150万円のプラス、行政も競売だと回収0円のところ50万円も回収できるので、お互いに万々歳!となるはずです。
ところが、奇奇怪怪。
そうならないことも現にあるのです。(不動産屋さんなら分かると思いますが)
なぜかというと、行政が「滞納税全額を払わなければ解除しない」などと言って解除を渋るからです。渋っていたら、焦れた金融機関などがハンコ代の金額を上げたりしますから、これに味をしめて、冷静に判断せず何でもかんでも解除不可の回答を出したりするのです。これ、行き過ぎると、結局タイミングを逃して売れなかったりして、誰の得にもなりません。差し押さえを解除=滞納した税金を免除、というわけではもちろんないので、理解に苦しみます。
行政の言い分としては、競売したときの方が高く売れて回収できるかもしれないから、などがあるのでしょうが、不動産には「相場」というものがあります。
相場以上では売れないので、競売したとしても明らかに配当を受けられないような状態であるにもかかわらず、解除義務があるのに(※国税徴収法79条1項2号)差し押さえの解除を受け入れず、もはや(結果として)妨害に近い形になって不動産の流通や財産の処分ができない、清算できず塩漬けのまま、ということが全国でも頻発しているとかいないとか…。少しでも滞納税金回収できるのに回収できないとなると、それは仕事をしたことになるのでしょうか。納税者に対してどうなんでしょうね。
※【参考】国税徴収法79条
第79条 徴収職員は、次の各号のいずれかに該当するときは、差押えを解除しなければならない。
一 納付、充当、更正の取消その他の理由により差押えに係る国税の全額が消滅したとき。
二 差押財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び差押えに係る国税に先立つ他の国税、地方税その他の債権の合計額を超える見込みがなくなったとき。
あのとき任意売却できていたらこれよりも多く回収できたのに、と憤る金融機関や、売買仲介手数料を儲け損なった不動産屋さんも多いのでは、と思います。
これまでは泣き寝入りでしたから、損害賠償を認めた今回の判決は一つの光明となるかもしれませんね。そもそもハンコ代、という慣習も変なものですが。
司法書士は、登記の専門家として、不動産売買のお手伝いをすることが多く、また、相続財産管理人として、亡くなった方の財産の清算手続に従事することもあります。
その立場からすると、非常に面白いというか意義のある判断だと思っています。
ただ、判決が確定したわけではないので、控訴審で争われて結果が覆るかもしれませんけど。目が離せません。
当事務所は、「まもる」をコンセプトに以下の業務を行っております。
■「資産」をまもる → 財産管理・不動産登記・成年後見・民事信託
■「企業経営」をまもる → 契約助言・事業承継・商業法人登記・事業再生・法務顧問
■「人間関係」をまもる → 遺言・相続手続・成年後見・各種裁判所提出書類作成
■「権利」をまもる → 裁判手続・裁判所提出書類作成・不動産登記
■「安心生活」をまもる → 相続対策・生前贈与・トラブルの未然予防・トラブル対応