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振り込め詐欺??
社長の自宅に、突然、裁判所から郵便物が届くことがある。何だろう?まさかあの件で訴えられたのだろうか?
おそるおそる開封してみると…中には、「会社法違反事件 過料決定」と題した書面があり、過料○万円に処すると書いてある。ははーん、これは、裁判所の名を騙った新手の振り込め詐欺か?
いやいや、そんなことはなく、残念ながらこれは国の正式な文書であり、きちんと支払う必要がある。
なぜか?会社を設立するとき、国の備える登記簿に、商号(社名)や役員などを記録するが、この記録内容に追加や変更があった場合には、必ず変更登記を行わなければならないと法律で決められており、これを怠ったら“過料”(罰金のようなもの)の制裁を行うと規定されているからである。例えば、役員を変更したのに登記していない、などの理由が多いようだ。
「そんな法律は知らなかった!」などと言われることがあるが、知っていようがいまいが、全く関係ない。違反したら、100万円以下の過料に処せられても文句は言えない。しかも、その通知は会社に届くのではなく、社長個人の自宅に届けられる。担当者がいる場合、怒られる様が目に浮かぶ。
いずれにせよ過料予備軍はよく見かけるので、早めに司法書士に相談することをお勧めする。 たまに、日付を変えて申請することを勧めるえせ専門家もいるようだが…やってしまうと公正証書原本不実記載等罪という立派な刑法犯(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)になってしまうので注意が必要だ。
BisNavi201108月号掲載
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役員解任!!
社長や株主だって、人間。自社の役員に対して、どうも気に食わないとか思ったよりも活躍してくれないから辞めてもらいたい、なんてこともある。でも、それとなく言っても辞任はしないし、はっきり言ったら拒否された。一体どうすりゃいいんだ??とお悩みの方がいるとかいないとか。
確かに、「解任」の二文字があると会社の信用に傷がつきかねないので、そもそも解任などしないに越したことはないのであるが…いざというとき、役員は、いつでも株主総会決議によって解任することができる(会社法339条)。その役員がどう思おうが、適法に解任決議をしてしまえば、役員でなくなる。
これだけを読むと、ことは簡単だが、気をつけなければならない点が、実はある。大きくは次の2つ。
①会社法339条2項(解任された者は、解任に正当理由がある場合を除き、解任によって生じた損害賠償を請求できる)
②株主総会開催やその決議の適法性
損害賠償さえ覚悟すれば①については耐えられる?かもしれない。意外と見落としがちなのが②だ。筆者も裁判で携わったことがある実話だが、ここを押さえておかないと、解任決議は「無効」となりかねない。
迅速かつ適法な株主総会を行うため、事前に「定款」に手を加えておくことで有効な対策が打てることが多い。解任で言えば、任期や決議要件・召集などが挙げられるだろう。
ちょっと賢い方なら、「ん?そうすると解任しようと思ったときに適法な株主総会を開いて損害賠償額が最も少なくなるように役員任期を短縮すればよいのではないか?」と思うことだろう。これは、実際にやった方がいて、案の定争いになったのだが、裁判所の判断は「もともとの任期で計算しなさい。」というものでした。そんなに恣意的にできてうまい話はない、ということだ。
それにしても、いざというときの役立たず「ひな型定款」を用いている会社はたくさん存在する。だいたいは会社設立後何のメンテナンスもなされずに放置されていることが多い。リスク回避のためにも、ぜひ一度御社の定款をチェックすることをお勧めする。司法書士は、会社法の専門家であるので、お気軽にどうぞ。
BisNavi201109月号掲載
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名義貸し役員の悲哀
「何もせんでいいけん、役員として名前だけ貸しとって。絶対に迷惑かけんけん!」
こんなことを聞いたり、誘われたり、うっかり話に乗ってしまったような方は…残念ながら読者にも何人かいるかもしれない。
取締役会を置く会社には、最低限、取締役3名が必要なことから、事業に無関係な親族や知人を就任させる例が多い。会社が上手くいっているときは、特に問題は表面化しないが、もし、会社代表者に不正行為などがあって取引先に損害を与えた場合、はたしてその名義貸し役員の運命はどうなるのか!?
取締役には、任務をきちんと遂行する義務や代表取締役などの業務執行を監視すべき義務があり、業務執行が適正に行われるようにする職責がある。取締役が、悪意(不適切な業務執行を知っていた)または重過失(簡単に知れたはずのに漫然と見過ごした)によってこれらの義務に違反し、会社や第三者に損害を被らせたときは、責任を問われ損害賠償責任を負うことになる(会社法423条・同429条)。
会社法は、名義貸しの役員の存在を認めていないため、取締役就任を承諾した以上これらの義務から逃れることはできず、仮に「名前だけ貸してもらうだけでよくて、責任は負わせない」などと約束したところで何の役にも立たない。確かに、一定の場合には免除されることもあり得るが、名義貸し役員とわかっていながらあえてそんな賭けに出ることもないだろう。
ということなので、万が一、現在、名義貸し役員にあたる方がいたら、早急に辞任することをお勧めする。冒頭の悪魔のような囁きに乗ったがために、あとあと泣きをみることなきようご注意いただきたい。
BisNavi201110月号掲載
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そこと取引しても大丈夫?
ある会社と新規取引を始めるにあたって、皆さんは相手方の会社の信用調査をきちんと行っているだろうか?
中小企業の経営者から、「何もしてない」とか「人からの紹介だから」とか「今まで問題なかったから大丈夫よ」などの言葉が返ってきて愕然とすることがある。相手方名刺の住所を調べるとそこに会社そのものがない、代表者が別人だったという嘘のような本当の話も幾度か経験した。まさか、名刺に代表取締役と書いていた、HPを見ただけで信用したと言う方はいないとは思うが、『危ない会社』を見分けるために少しはコストをかけて調査し、リスクヘッジする必要がある。
では、どういった調査が必要か。簡単に言うと、まずは、インターネットで下調べし、次に国が公開している登記簿関係を調査、最後に実地調査という流れが自然だろう。
実地調査は、数十もの確認項目があるため他日に紙面を譲るが、登記簿関係の調査は、国に登録されている様々な内容(会社・不動産・債権・動産の基本情報)を簡単に引き出すことができるので、お金はかかるが利用しない手はない。法的な裏付けのあるデータをしっかり分析しよう。例えば、会社登記簿のチェックポイントをいくつかあげると、①社名変更が繰り返されていないか②頻繁に本店移転していないか③事業目的に相互関連性があるか④資本金の増減はあるか⑤役員変更の頻度や就任退任の事由は何か、などがある。いずれも、あくまで『危ない会社』の予兆を捉えるものでしかないが、知っているのといないのとでは雲泥の差がある。
信用性の裏付けを取った上で取引を開始しよう。なぜなら、大事な会社・従業員・家族を守るのは、経営者の「あなた」だからだ。
BisNavi201111月号掲載
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取締役が負う義務とは?
D社やO社の問題が紙面を賑わしている。いずれも、コーポレートガバナンス(企業統治)に問題があり、見直し・改善による企業経営の透明性の確保が求められている。従業員にコンプライアンス(法令遵守)を求める立場の役職(取締役)が変なことをやっていると会社が危なくなるのは自明の理である。
ご存知ない方もいらっしゃると思うので、ここでは法律上取締役が負っている様々な義務について簡単に取り上げてみる。
取締役は、大きく①善管注意義務(取締役として通常期待される程度の注意を払って職務を遂行する義務)②忠実義務(会社法その他の法令・定款・株主総会決議を守り、会社のため忠実にその職務を遂行する義務)がある。
具体的には、自分や第三者の利益のために自社と競合する取引を行ってはならないとか勝手に自社からお金を借りたり、自分の所有物を売買してはならない、業務執行にあたる他の取締役の経営姿勢に監視の目を光らせておかなければならない、日頃から会社の現状をよく把握しておかなければならない、などである。もし、これらの義務に違反して、会社や第三者に損害を与えた場合、損害賠償というかたちで責任を問われることになる。
上記の観点からすると、果たして冒頭のD社やO社の取締役はどうなのだろうか?
そのことはさておき、取締役の負う義務は大企業だろうが中小零細企業だろうが全く関係ない。会社規模が小さいから、などといった甘えは許されないのである。このことを踏まえたうえで企業経営に力を尽くしていただくことを願う。
BisNavi201112月号掲載
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軽視できない労働トラブル
あなたにとって、従業員は、以下のどれにあたるだろう?
①俺が食わしてやってる下僕
②会社が儲けるための道具
③苦労を分かち合う仲間・家族
答えが③の方は、きっとこのコラムを読まなくても大丈夫だろうが、特に①②の方は注意が必要だ。
時勢を反映してか、執筆者事務所も含め、各専門家や相談機関に寄せられる労働トラブルの相談件数は増加の一途をたどっている。この世の中の流れを、敏感に感じとっているだろうか?
「賃金の支払いが遅れている」「残業代が支払われない」「突然解雇された」という従業員側の相談。会社側は、「業績不振で支払えない」「人件費を削らないと経営が成り立たない」という答え。事情は分からないでもないが、そうは言っても、従業員側からの労働基準監督署に対する法令違反の申告や裁判所への訴訟提起は止めようがない。もしそんなことになると、経営者や会社は、時間的・金銭的・精神的・信用的に多大な負担を被ることになる。
それを防ぐには、やはり常日頃から就業規則や三六協定の届出、賃金台帳、労働者名簿など諸規程や労働関係業務の流れを把握・整備し、証拠確保しておくことが大切である。便利な抜け道などはない。軽く考えているととんでもないことに…。例えば、司法書士や弁護士が残業代請求する場合、いきなり会社の銀行口座を押さえることがある。いざとなって痛い目を見ないように、専門家に少々費用を払ってでも、まともな労働管理を行うことをお勧めする。
まぁ、そもそも一番いいのは経営者の本心が③であり、日頃の言動に表れていることと思うのだが。
BisNavi201201月号掲載
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株主が死亡したら
会社は、誰のものか?
社長のもの、社会のもの、地域のもの、社員全員のもの、オレのものなど色々な答えがあるだろう。しかし、会社法という法律の観点からすると、実質的な所有者は「株主=出資者」のものと言える。
ここで少し考えて頂きたいのは、もし株主が死亡して相続が発生したらどうなるのか?ということだ。事例を見てみよう。
【事例】『L株式会社には、株主が3名おり、Aさん100株・Bさん200株・Cさん300株を保有している。今般Cさんが亡くなり、相続人はCさんの子供2人であった。』
よくある誤解だが、この場合、Cさんの株は、相続人に150株ずつ相続されるわけではない。遺言がない限り、2人で300株を共有するかたちになる。
さて、会社側から見た場合、Cさんが死亡したときに考えられるリスクとしては、何があるのか?大きく以下の3点を挙げる。
①事例の場合、Cさんの株の相続人を決めるか又は権利執行者を指定しない限り、株主総会で重要事項の決定が一切できず、会社の運営がストップしてしまう可能性がある。
②Cさんの相続人が良からぬ人物(反社会的勢力に属する者)である可能性がある。
③Cさんの相続人が、株を第三者に売って株式譲渡承認請求をしてくる可能性がある。怖いのは、請求されたら、拒否するにしても会社が買い取るか又は指定買取人が買い取らねばならない点だ。つまり、突然のキャッシュアウトを強いられかねない。
その他、株主代表訴訟やクーデターも起こり得る。以上のように、株主の相続は会社にとって重要な問題であり、早めの対策に勝るものはない。いざとなって慌てないよう、まずは、定款の見直しから始めよう。
BisNavi201202月号掲載
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株の譲渡承認請求されたら
前回、株主が死亡した場合のリスクとして、「譲渡承認請求」の可能性について言及した。実際にされると意外とダメージが大きい制度なので、もう少し詳しく説明する。
通常の中小企業は、株を誰かに譲渡する(売買・贈与など)ときには株主総会または取締役会などの承認がなければダメですよ、と定めている所謂「非公開会社」である。これは、会社にとって好ましくない人物が株主になるのを拒むためである。しかし、そういった制限がある株でも、法は譲渡承認請求の制度を認め、投下資本回収の道を開いている。
もし、株主又はその譲受人から承認請求された場合、会社には大きく3つの選択肢(①承認する②拒否する③無視する)がある。
承認請求されたにも関わらず、2週間無視した時は、その株の譲渡を認めたこととみなされるので、お勧めできない。では、拒否する場合は、拒否することだけを伝えればそれでいいのか?残念ながら、答えは『ノー』である。
拒否するときは、①会社が買い取る②指定買受人が買い取る、ことが必要となる。つまり、請求がなされたら、承認するか、会社含め誰かが買い取るか、しかないのだ。
そして、その買取り金額は、株を譲渡する株主との協議で決めるが、決まらなければ…法で決められた価格か裁判所の価格決定によることになり、高く買い取らねばならなくなるのだ(原則「純資産価格」)。 この点からしても、株主が分散していることの危険性が理解できると思う。その昔、会社経営者の相続税節税で流行ったのが、親戚に5%未満の株を贈与して相続財産を減らす手法である。しかし、最近では株を経営者又は後継者になるべく集中させるのが常識である。いろんなリスクの芽を摘み取る意味でも、今のうちに株主対策を考えよう。
BisNavi201203月号掲載
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国際取引の契約のポイント
経済の冷え込みが続く日本において、海外展開に活路を見出し積極果敢にビジネスチャンスを求める中小企業が増加している。
こうした状況を受け、中小企業庁は、3月9日、中小企業海外展開支援大綱を改定し、オールジャパンで支援していく意向を示した。
海外と取引を行う場合、それぞれの国によって習慣や文化、風俗、法律が大きく違うため、日本と同じに考えていては上手くいかない。もし法的トラブルに巻き込まれると精神的・時間的・費用的に多大な負担を覚悟しなければならなくなる。そこで、国際取引を始めるにあたり、法的トラブルに巻き込まれないための簡単なポイントを5つ挙げてみる。
①相手の国の文化と法律を調査する
相手を知り己を知れば、百戦危うからず。現地の法律に詳しい専門家を見つけるかJETROなどから情報を仕入れると良い。
②契約書が“全て”である
契約した後の修正や追加は困難。書いてないことはやっていい、など解釈されかねず、「基本的なことだけ定めて、後は何かあったら」なんて甘い考えは厳禁。細かいことまで全部盛り込んでおくこと。
③契約交渉に遠慮は禁物で、時間がかかる
契約締結までは、お互いの主張を自由にぶつけ合うことができる。議事録や合意書を上手に利用し、交渉経過を文書化しておく。
④使用言語をどうするか決める
国際取引だから英語で契約しなければならないというルールはない。契約書をどの言語で記載するかもその力関係で決まる。
⑤どちらの国の法律を利用するか決める
契約内容やトラブル発生時ついて、どちらの国の法律や裁判所で解決するか、あらかじめ決めておくこと。大変重要。
海外展開を成功させるためにも、上記のポイントに留意して契約を進めて頂きたい。
BisNavi201204月号掲載
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民事介入暴力の対策を
福岡県は、暴力団員が多数住んでいる地域である。県内に指定暴力団が7団体あり、その数、昨年6月時点で約3400名(準構成員含む)。ちなみに、年間発砲事件の4割は福岡である。
ところで、民暴とは、暴力団やその周辺者が、日常生活や経済活動に伴う民事紛争に対して、当事者あるいは代理人として介入し不当な利益の獲得を図る行為と定義される。例えば、公共工事に絡んで恐喝したり、株主間の紛争に不当に介入するなどである。暴対法施行以後は、暴力団と無関係であることを装ったフロント企業やクレーマー等を利用するなど経済活動への不当介入は広域化・知能化・巧妙化の一途をたどる。表向きでは暴力団か否か判断がつかないこともあり、企業にとって、いつ巻き込まれてもおかしくない「リスク」の一つである。
いざ契約を結んでしまうと、相手が暴力団員又は反社会的勢力ということだけで自由に契約解除することは、原則としてできない。反社会的勢力のほうが法的知識を十分に持っているケースもあることを念頭に置いておこう。
では、暴力団をはじめ反社会的勢力を契約締結の前段階でシャットアウトして関わり合いを持たないようにするにはどうしたらいいのか?まずはフロント企業にありがちな特徴を知り、次に「暴力団排除条項」を上手に利用することである。
特徴の例は、①商業登記簿上いろんな動きが見られ合理的な説明がなされない②会社本店や代表者個人の不動産に不自然な差押等がある③社内の調度品や置物・車、社員・責任者の言動が不自然、などである。
福岡県は、暴力団排除条例の中で、事業者間の書面による契約には「暴力団排除条項」を盛り込むことの努力義務を定めている。御社はきちんと対応できているだろうか?
BisNavi201206月号掲載
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明日は我が身?個人情報の漏えい
NPO日本ネットワークセキュリティ協会の2011年報告書(上半期速報版)によると、上半期だけで、個人情報漏えい件数が807件、漏えい人数は208万5566人にのぼり、これによる想定損害賠償総額を573億1642万円(1人あたり4万1192円)と算定する。また、個人情報漏えいの原因は、①管理ミス(約38%)②誤操作(約33%)③紛失・置き忘れ(約12%)④その他(盗難・内部犯罪・不正アクセス等)となっている。
ITの発展に伴い、企業は以前より簡単に個人情報を収集し商業利用することが可能になった。しかし、便利になった反面、預かった個人情報の流出による社会的信用の喪失の危険が以前より高まっているのも事実だ。
こうした情報が収集され活用されることのプラス面とマイナス面のバランスを取り、個人情報を適切に取り扱うためのルールが個人情報保護法だ。ここのところ個人情報保護に対する意識は高まっており、個人情報の適切な管理はその企業の社会的信用につながるため、事業を行う上で個人情報保護法を押さえておく必要があることは言をまたない。
個人情報の漏えいは、注意をしていても発生する可能性があり、完全に防ぐことは難しいかもしれないが、漏えいするとどうなるのか?この場合、法的責任として、民事上の責任(損害賠償)を負うのみならず、刑事上の責任(懲役または罰金)をも負う可能性がある。そして、法的リスク以上にやっかいなのが、信用低下による取引先との取引停止や注文減少、問合せ対応等による通常業務への支障などである。
こうした諸リスクがあるにも関わらず、何の対策も講じていない企業が多く見受けられる。あなたにとって、個人情報漏えい事件は対岸の火事だろうか、それとも他山の石だろうか。
BisNavi201208月号掲載
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権利の上に眠る者は、これを保護せず
「時効(じこう)」という言葉を聞いたことはあるが、内容を知っているか?と問われれば、そう知っているわけでもでもなかったりする。
時効とは、ある事実状態が一定期間継続したことによって、法律よりも事実関係を優先させてしまう制度だ。
大きく分けて2種類ある。一つは「取得」時効、これは例えば20年間不動産を占有し続けていると、本来所有者ではないのに権利を取得する、といったものだ。二つ目は「消滅」時効、これは例えば、ある会社に対する売掛金があるのに放置していて権利が消えてしまう、などである。
会社の経営をしていく上で、どちらが大事かと言えば、「消滅」時効の方であろう。担当者が気づかぬまま請求漏れを起こしていたなんて話は結構あったりするものだ。
では、そもそも時効は何年なのか?権利の種類ごとに異なったりするので、原則と例外をいくつか挙げてみよう。
【原則】商行為に基づく債権は、5年間
【例外】ホテル等の宿泊料や飲食料、運送料は、1年間。商品の販売に関する売掛金は、2年間。工事の請負代金は、3年間。など。
「時効だから支払いません」と消滅時効を主張すると、そんなことは知らなかったとか支払うのが人の道だ、と言う方がおられる。だが、権利行使できる期間に何も対処せずに手をこまねいていたのだから、権利を持っている側にも責任がある。つまり、権利というものは「主張」「行使」しないと、「その権利は必要ないんだね」と法律も守ってはくれないということである。
御社でも、消滅時効を主張されることがないよう、自社の権利についてきっちり時効管理しておこう。法は、権利の上に眠る者を保護しないのだから。
BisNavi201207月号掲載
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1人株主の会社がはらむ危険
平成18年5月を境として、現在、株式会社を設立するにあたって、出資金は1円以上であればよく、また出資者=株主も1人で構わない。格段に株式会社が設立しやすくなったため、株主が1人しかいない会社が増えている。
株主が1人であるメリットは、経営の意思決定を迅速に行うことができる点にあり、またデメリットは、その株主にもし「何か」が起こった場合、最悪会社経営がストップしてしまう可能性がある点だ。
「何か」の例を挙げよう。
①1人株主が死亡した場合において、相続人が複数いて話し合いがまとまらないとき
②1人株主が認知症になった場合
③1人株主が事故などで意識不明の状態になってしまった場合
もし上記のようなことがあったら、株主総会を開けない=会社経営できなくなるのである。会社経営の継続を考えた場合、1人株主の会社は、そういったことが起こり得ると想定して危機管理対策をとっておくことが肝要であるし、その対策を行っておくことは経営者の責任だろう。
1人株主の会社と取引をしている会社にとってもこのことは重要で、もしかしたら取引継続できなくなるかもしれない、という危険性(リスク)を分かった上で付き合っておくと、いざというとき慌てなくてすむ。
1人株主の危険性を回避するための対策としては、定款の記載内容を変更したり、遺言を書いたりすることが考えられるが、法的効力の部分で穴があると元も子もないので、きちんと専門家へ相談しながら進めることをお勧めする。
人間いつどうなるか、は神のみぞ知る。だが、対策は現時点でもできる。後は野となれ山となれ、では残された者が大迷惑を被るので、道筋だけはつけておいて頂きたい。
BisNavi201209月号掲載
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広告時に気を付けること
今年5月頃、消費者庁が、オンラインゲームのアイテム商法「コンプガチャ」は景品表示法に抵触する、として同法の運用基準を改正すると発表したことに端を発し、マスコミを賑わせたいわゆる「コンプガチャ問題」はいまだ記憶に新しいことだろう。
この景品表示法、皆さんはご存知だろうか?販売促進キャンペーンやイベントで景品やノベルティを扱うときやチラシ等作成・HP制作・広告するときなどに、ぜひ知っておきたい法律の一つである。
景品表示法では、
①商品やサービスの品質・内容・価格などの不当な表示
②商品に付随する過大な景品類の提供
の二つを制限して、一般消費者がより良い商品・サービスを自主的にかつ合理的に選べる環境を守ることを目的としている。
要は、広告ではお客様に誤認させるような不当な表現はするな、過剰なおまけでお客様を釣って商品販売するな、ということだ。
もし違反した場合はどうなるかというと…
①消費者庁などの行政機関による立入検査や措置命令②都道府県による広告取りやめ指示や消費者庁への措置請求③適格消費者団体による差止請求、などのペナルティを受けることになる。①の措置命令を受けた場合は、消費者庁HPに会社名付きで公表・掲載されてしまうし、商品等が景品表示法に違反するものであることを新聞広告等で周知しなければならない。さらに、措置命令を無視したら、会社代表者に2年以下の懲役または300万以下の罰金、会社に3億円以下の罰金が科されてしまう。
うっかり違反して、思いがけない出費や信用低下を招いてしまわないよう、広告や販促等を行う場合には、景品表示法を念頭に置いておこう。消費者庁HPにはたくさんの違反事例が公表されているので、どんな表現がアウトなのか一度ご覧いただきたい。
BisNavi201210月号掲載
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会社の登記
株式会社にしても合同会社にしても、はたまた法人(医療法人・社団法人など)にしても、設立するときには「登記(とうき)」することが義務付けられているし、登記内容を変更するときも登記しなければならない。法律で決められているから仕方なくやる、という方がほとんどだろうが、そもそもなぜ会社の登記をしないといけないのだろうか?
商業登記法には「登記制度を定めることにより、会社等に関する信用の維持を図り、かつ、取引の安全と円滑に資することを目的とする」と書かれている。
自分(自社)が、他の会社と取引をしようとするとき、そこがどのような会社かわからない…という場合を想像してみると理解できる。代表者は誰か、社歴はどのくらいか、どんなビジネスを事業目的としているのか、どの程度の規模があるのか、などの情報を事前に掴めると安心してスムーズに取引ができるというものである。ちなみに、登記した会社の情報は、お金さえ払えば誰でも入手することができる。
国が管理する商業登記簿に、法で定められた内容を登記し一般公開することによって、4つの効力(公示力、公信力、形成力、免責的効力)が認められる。きちんと自社の「登記」することは、自社の信用性の保持につながり、同時に自社のリスクヘッジにもなり、更に登記の知識経験を重ねることで取引相手方の信用性を見抜く目も培われることとなるのだ。
必ず「登記」をしなければならないのであれば、これを積極的に活用して、上記の効力(メリット)を自社に上手く取り込んではいかがだろうか。なお、登記内容が変更した場合に登記しておかないと100万円以下の過料に処せられるのでご注意いただきたい。
BisNavi201211月号掲載
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1人株主兼社長が亡くなった
筆者は、9月号に「1人株主の会社がはらむ危険」という記事を書いた。11月中旬、まさにその危険どおりの事が起こった会社の社員から相談があった。
1人株主の社長が突然亡くなり、どうしたらよいか、親族と共に途方に暮れているという。4年前に起業して、社員一丸となってがんばった結果、徐々に売上を伸ばし、ようやく1年前から収益が上がって取引先も拡大している矢先とのこと。亡くなった社長は若く子どもも小さい。社員数名は、会社存続できるか否か不安な毎日を過ごしている。
社長は、この数年間の運転資金、そして設備投資のための融資を受けており、親族はその借金を負いたくないので、全員が相続放棄の意向である。
となると、会社の株式は誰も相続する者がいなくなる、という事態に陥る。すなわち、すぐに新たな代表取締役(社長)を選任できなくなる=経営が継続できなくなるのだ。
何も対策を取っていないと、こういう事態が起こった場合に、打つ手がほとんどない。現在、この会社は、筆者も携わって方策を練っているところだが、ほとんどお願いベースであるため、最終的には特別清算又は破産ということになる可能性が高く、社員もそれを覚悟している状況である。
人は必ず死ぬ。そして、時期は選べない。
経営者の死亡は、「経営」という観点でいうと、確率100%のリスクなのだ。1代でつぶしていいという方はいいが、そうでないなら、対策を取っておかねば残された家族・社員・取引先の皆が困る。
事業承継の対策は、経営者の義務である。何も最初から完璧な対策を取る必要はなく、まずは経営を続けるための最低限の対策からスタートしよう。大事なのは、動き始めることだ。次回は、事業承継の選択肢について。
BisNavi201212月号掲載
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中小企業の事業承継①
「事業承継」が声高に叫ばれるようになって久しい。国も経営承継をスムーズに行えるよう法律を作り、いろんな施策を打ち出しているが、遅々として進んでいない印象だ。
会社が現在存続できているのは、資金を出した株主やお客様、取引先、従業員があってこそ。会社は、彼らの生活等を支える役割を担い、社会的には納税をはじめとして諸般に渡り存在意義を有している。すなわち、会社が存在することの重みは計り知れないものがあり、現経営者や大株主にとって「事業(経営)の存続と発展」をどうするか、は真剣に考えなければならない経営課題の一つであることは間違いない。
しかし、日本人の気質とでもいうべきか、事業承継対策の必要性について、頭の中ではわかっていても、差し迫らないと動かない傾向が強い。どこから手を付けていいかわからないという声も聞くが、経営者は、あくまで会社経営の存続を第一義に、
・経営の承継(理念・人・物・金・情報…)
・経営者の交代
・資産の承継
の3点について、「方向付けを行うこと」が責務である。これは現経営者にしかできないことだ。そして、方向付けを行うのに有効なのは、専門家の意見を聞くことだが、気をつけなければならないのは、1人だけまたは同職種の専門家だけに意見を聞くことだ。というのも、経営そのものは、税務・法務・労務・財務・ビジネスなどが複合的に絡み合っているため、一方の対策にはなっても、別の観点から見ると大きな問題になることが往々にしてあるからだ。ミスリードに合わないよう総合的な視点を忘れないようにしたい。
もしあなたが事業承継対策の必要性を感じているなら、行動しなければ何も始まらない。上記の注意点を守りつつ、まずは身近な専門家に相談してみよう。
BisNavi201301月号掲載
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中小企業の事業承継②
1月15日、「ガイアの夜明け」というテレビ番組で、“後継ぎ”募集します~ある商店街の180日の戦い~が放送された。
静岡県JR清水駅前にある乾物屋「蒲原屋(かんばらや)」を舞台に、後継ぎが身近にいない現店主(69歳)が、全国初の後継者公募プロジェクトを行い、数か月かけて後継者を選定していく、という内容だ。
この番組を見て、強く印象に残ったのは、経営者の事業にかける“想い”である。こうした経営者の“想い”を後継候補者にきちんと引き継いでもらうためにも、以下に挙げる事業承継の選択肢と考え方のポイントを知っておくのは有益なことである。
【承継方法の選択肢】
①株式は親族が承継し、経営も親族が行う
②株式は親族が承継し、経営は親族外の会社
内部の人材が行う方法(所有と経営分離)
③株式は親族が承継し、経営は親族外の会社
外部の人材が行う方法(経営プロ登用)
④親族が、株式を社内の経営陣や従業員に売
却する方法(MBO・EBO)
⑤親族が、株式を外部の会社や個人に売却す
る方法(M&A)
⑥廃業(自主的解散・倒産)
【ポイント】
①事業を継続するか否か②株式を保有し続けるか否か③経営者は親族内から選ぶか否か④株の売却先をどうするか
事業を続けたくても「後継者がいない」問題、日本全国で数多くの企業が直面していることだろう。だが、いないいないと言っているだけでは何も始まらない。経営を維持発展するため、後継候補者の人物や手腕を見極めるために、上記を参考にしながら、まずは後継者の選定と承継方法の選択という行動を始めよう。何事も早め早めが肝心だ。ご相談はいつでもどうぞ。
BisNavi201302月号掲載
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中小企業の事業承継③
中小企業の事業承継に着手するとき、株式会社であれば、経営者が多くを所有する自社株の移転(後継者への売買や贈与)の問題に行きあたる。
後継者には、経営権確保のために、十分な議決権(会社の重要事項について賛成や反対できる権利)を得られるだけの株を与えることが望ましい。しかし、様々な利害関係人(推定相続人・経営幹部・税務署・取引先など)の思惑が絡んで、なかなか一筋縄ではいかないのが現状だ。
私の遭遇した例をいくつか挙げてみる。
1 経営者の財産が、主に会社の株しかなく、後継者以外の相続人に対しても株を与えざるを得ないケース(相続人から遺留分を請求される可能性があるから)
2 後継者がまだ心もとないので、後継者に全ての株を渡すのに抵抗があるケース
3 創業からずいぶん成長したので、株価が創業時の3倍になっていて、後継者に株を渡す際の課税関係に問題があるケース
これらの場合に、解決の一手法として用いることができるのが、「種類株式」だ。内容の異なる9種類の株で自社の状況に合わせて自由に設計することができる。また、非公開会社では属人的株式も利用できる。
例えば、ケース1では、現経営者の株を①普通株式と②剰余金配当優先無議決権株式の2種類に分け、後継者には①を、経営にタッチしない推定相続人には②を渡すことが考えられる。こうすることで、後継者は経営権を確保でき(余計な口出しをされない)、推定相続人は会社が儲かれば一定の利益を享受できるカタチになるので、ウィンウィンの関係を築くことが可能だ。
単に株の移転の問題だけでも、上記の経営権確保・争族予防に加え税金面での検討も必要である。通常は、他に取引先や社内の対策も必要となるため、事業承継は時間がかかる。何度も言うようだが、対策は経営者が元気なうちに進めておくのが肝要だ。
BisNavi201303月号掲載
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SNSで会社の悪口を書かれた
ブログや2ちゃんねる、ミクシィ、フェイスブックなど社会的なネットワークをインターネット上で構築する、いわゆるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)が登場し、皆さんも何かしらご利用になっていることだろう。誰でも簡単に情報発信できるようになったのは確かに便利なのだが、一方で書き込み等に対して民事刑事の法的責任を問われるような事例も散見する。
この問題は、会社にとって決して他人ごとではない。会社が発信した情報に法的責任が発生する可能性があるし、会社の取引先や従業員、顧客、ライバル会社などの何気ない投稿や悪意ある投稿などで、会社が多大な損失を受ける可能性も秘めている。
投稿内容を公開して、もし拡散すると、もはや回収は不可能だ。たとえば、「○社はブラック企業だ」「商品の産地偽装をしている」などと全く事実無根の誹謗中傷を書かれた場合、それによる風評被害は現在だけでなく将来的にも起こり得る。この危険を御社はどれだけ理解しているだろうか。
会社の「名誉」は、法的に人格権として保護されていて、その名誉を傷つける行為は、民事上で不法行為による損害賠償請求の対象となり、刑事上は名誉毀損罪を問うことができる。したがって、会社に不利益を及ぼす投稿への対処方法としては、警告文の発送や名誉毀損による損害賠償請求、刑事告訴などが考えられる。投稿を放置しておくと、先に書いたように、風評被害が大きくなる可能性があるため、発見次第に対処するのが正解だ。
とは言え、名誉毀損については、次号で要件等お伝えするが、なかなかハードルが高いところもあるので、証拠もなしに内容証明で警告文を発送してしまうと、逆にこちらが訴えられかねないので、ご注意を。まずは証拠の確保と専門家への相談から始めよう。
BisNavi201304月号掲載
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SNSでの名誉棄損②
前回、SNSで会社の悪口を書かれた場合の対処として、警告文発送や名誉棄損による損害賠償請求、刑事告訴などの方法が考えられるとお伝えした。今回は、名誉棄損のよくある誤解や注意点について述べる。
【よくある誤解】
①名誉棄損で保護されるのは、あくまで外部的名誉(その人に対して社会が与える評価)だ。例えば、誰もいないところで面と向かってひどいことを言われたとしても、何らその個人や法人の社会的評価を低下させるわけではないので、原則として名誉棄損は成立しない。
②「本当のことを言っただけだ」などと仰る方もいらっしゃるが、発言や書き込みの内容が真実であったとしても、名誉棄損は成立する。
ところで、「社会的評価を低下させる」と一口に言うが、はたしてその発言や書き込みがその人の評価を低下させるものかどうか、受け止める人によって異なることもある。どうやって判断したらよいのだろうか?おおむね確立された裁判例によると、新聞や雑誌なら「一般読者の普通の注意と読み方」を基準に判断するとなっている。
インターネット特有の問題点としては、ハンドルネーム等を使用することに伴う書込者の匿名性が挙げられる。実名で投稿しているならともかく、匿名で書き込まれている場合、間違いなくアイツだろう、と分かったとしても、原則としてまずはプロバイダやサイト管理者に対し、書込者を特定する手続きを経なければならないのである。確かに骨は折れるし、費用もかかるだろうが、会社としては、毅然とした態度を外部にも内部にも示す必要があるだろう。
いざSNSで悪口を書きこまれたら、上記を参考にしながら、名誉毀損にあたるものなのか慎重に判断いただきたい。
BisNavi201305月号掲載
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休眠会社の売買
5月21日の朝刊各紙に、「休眠会社の不正売買」に関する記事が記載されたようだ。
休眠会社を転売する目的で、違法に法人登記を変更したりするなど、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで経営コンサルタント会社社員等が逮捕された。広島県警によると、この会社は休眠会社売買を中心に事業展開し、転売した会社のうち35社が特殊詐欺事件に悪用されたという。容疑者は、虚偽の臨時株主総会議事録を作成し、法務局に提出、登記をしたため、司法書士法違反の容疑もかけられている。
新しく会社を持つには、大きく分けて自分で設立する方法と既存の会社を買い取る方法の2つある。新規設立する場合は、会社法上定められた手続きを行う必要があり、一定の時間と費用がかかる。一方、会社を買収するには株式を取得すれば足りるため、上場会社を除き、特に手続きは定められておらず、また費用についても、株の売買代金以外は定款変更等しない限り必要ない。
登記はしているけれども実際は何ら営業等していない休眠会社は多く存在し、売買で安く手に入ることが多いため、新規に会社を作るよりも一定程度メリットがあるのは確かだ。しかし、休眠会社の買収は、会社の中身が全く分からないため、いろんなリスクが考えられ、かなり慎重に行わなければならず、あまりお勧めできる方法ではない。
また、会社の登記をする際に、ひな形等を使えば簡単にできそうであるが、実は登記の背後には会社法等の諸規定が潜んでおり、記事にもあるとおり虚偽の書類を作成して登記をさせると、逮捕もされてしまう。司法書士以外の者が登記をするのは、危険が伴う。
以上のことを知っておくと、きちんと登記がされているか、その内容に不審な点はないのか、取引先の登記簿謄本を調査する際に有用だ。もし登記簿の見方がわからないときは気軽に筆者まで問い合わせを。
BisNavi201306月号掲載
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定款は、あなどれない
「定款」、読みは「ていかん」である。いったいどれだけの中小企業経営者がこの文言に興味を示すだろうか。
定款とは、だいたい、会社の憲法だとか、根本規則だとか、原始ルールだとか言われることが多い。ただ、そう言われても、はぁそうですか、とピンと来ない。社長に尋ねてみると、会社設立時に必要だと言われたから、専門家にお任せか法務省が出しているひな型に則って作成する、という答えが99%返ってくる。会社を設立するときには絶対必要なくせに、そんなに深く考えることも議論することもない、この存在感の薄さはどうだ。
だが、実は、例えば、株主総会の手続きや内容が定款に違反してしまった場合、決議が取り消される可能性があるなど、会社にとって非常に重要なものであるし、また事業承継・資金調達・危機管理・内部統制などの経営課題に戦略的に利用することもできる代物であることはあまり知られていない。
自宅を建てるときになぞらえてみるとわかりやすいだろうか。思うに、定款の役割というのは、建物の仕様や骨組を決めていく設計図のようなものだ。ひな型で作成したら、とりあえず建物は建つけれども、画一的で可もなく不可もない。一方、デザイナーズ住宅のような設計図も可能だ。会社法では、定款による会社の自治(法令に違反しない限り定款で定めればそれがルールになること)が相当認められているので、これを上手に活かすと他にはないオンリーワンのものが出来上がるだろう。まぁ、見た目も大事だが、建物なので、傾いたり、雨漏れしたり、すきま風が吹いたり、強度不足だったりなどの欠陥住宅にならないよう、まずはしっかり基本性能を維持しよう。
いろんな会社の定款を拝見するが、専門家の目から見ると、残念ながら漏れや不足があったり、時代遅れの定款が多い。一度、自社の定款をじっくり眺めてはいかがだろうか。後から痛い目を見なくていいように。
BisNavi201308月号掲載
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会社の重要情報を守る
企業経営において、契約交渉段階や契約履行時に、自社の重要な情報(製品や技術、ビジネスモデル、営業ノウハウなど)を、ある程度相手方に開示することや相手方から開示されることは珍しくない。重要に思えることを結構簡単に言っている人や面倒くさいからと言って何もせずに交渉開始する人をお見かけするが、果たして、その情報は漏えいされないのだろうか。社長は、このような危険極まりない行為をする担当者がいたら自社の信用にもかかわるので雷を落とさなくてはならないだろう。
上記のような場合は、会社にとって重要な情報(秘密情報)を保護するために、「秘密保持」に関する契約を契約交渉の前段階で締結することをお勧めする。この契約は、当事者の一方から他方に提供される情報を、契約をもって秘密として取り扱うことを内容とするものだ。確かに、契約書に記載しなくても不正競争防止法などで保護される場合もあるが、法で定める要件に合うことが必要であるし規制される行為も限定されるので、できれば契約を交わしておきたい。
では、どんなことを定めておけばよいのだろうか。一般的には、①秘密情報の定義及び秘密情報から除外される事由②秘密保持義務及びその期間③秘密情報管理④秘密情報開示の不存在⑤知的財産権の帰属⑥その他一般事項(損害賠償、解除etc)などの条項である。特に①②は、自社が情報を提供する側なのか又は情報を提供される側なのか、の視点によって内容が異なることもあるため、どちらに軸足を置くかしっかり整理することが必要である。
全社的な取り組みにはなるが、ぜひ経営者が率先して自社の重要情報保護に前向きに取り組んで頂きたいものである。
BisNavi201309月号掲載
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司法書士から見た「半沢直樹」
最終回まで高視聴率を保った「半沢直樹」。ご覧になられた方も多いことだろう。少しは銀行のやり方や、担当者が何を考えているか参考になったかもしれない。知り合いの銀行員数名から聞くところによると、誇張はされているものの概ね内情に忠実に描かれているのではないか、とのことだった。
一方、司法書士からすると、一般視聴者が気付かないであろう細かい点で、「それはないだろ!」と突っ込みを入れたくなる部分もあった。もちろんドラマなので目くじらを立てるつもりは毛頭ないが、後半部分で気になったところを2つピックアップしてみる。
1.大和田常務の奥様の名字
ドラマでは、タミヤ電機が4年前に銀行から借りた金を㈱ラフィットに横流ししていることを近藤が相談し、渡真利が社内の信用調査資料を見ると、棚橋貴子が代表を務めるアパレル会社であることが判明、その後、近藤の尾行のおかげで大和田常務と棚橋社長が夫婦であることがわかった。という流れだったが、現実ではこんな迂遠なことはしない。なぜかというと、法務局で会社の登記をする際、代表取締役は印鑑証明書を提出して、そのとおりに住所氏名を登記するからだ。要するに、たとえ名刺やHPで旧姓を使っているとしても、登記事項証明書を見れば本名は一目瞭然なのである。実際は、4年程度であれば、当然銀行の保管資料もそうなっているはずだ。
2.大和田常務の解任
最終回で、大和田常務を解任する云々の話が出ていた。しかし、これも冷静に考えると微妙である。常務職の解職は取締役会で可能だが、取締役の解任そのものは株主総会の決議が必要だ。当然、その開催費用も解任理由も必要になる。ドラマでは、頭取が大和田を平取締役降格だけの温情措置をしたように受け取れるが、実際には頭取権限や取締役会で解任することは不可能なのだ。その意味では、恩を売る機会をつかんだ頭取が一枚上手か。
色々書いたが、私も日曜21時を楽しみにしていた口なので、次回作を期待したい。
BisNavi201310月号掲載
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契約書ひな型に潜む罠
消費税率が8%に引き上げられる。業種業態にもよるが、御社はこれに対応できた契約書の条項になっているだろうか?契約のミスで4月以降損をしないように気をつけたいものだ。
ところで、一般的に、取引先と契約書を交わすとき、インターネット上にあった契約書ひな型を使用したり、社内にある別の契約書を参考にすることが多い。ひな型を参考にすること自体はぜんぜん悪いわけではなく、むしろ有効に活用すべきだが、そのまま内容の検討すらせずに利用することには、リスクが潜む。
なぜか?契約は、個別に事情や背景、置かれた立場が異なるため、まったく同じものはなく、基本的にその都度作成することが必要となる。一方、ひな型は、より多くの利用者に多くのシチュエーションで参考となる見本として価値があるものだから、一般的・抽象的・対等な内容が定められていることが多い。
契約は、お互いの権利と義務を定め、もしものことがあった場合の証拠とするために作成するものである。実情に合わないひな型をそのまま使用した場合、自社にとってもっと有利になる内容が考えられるのに気付かなかったり、トラブルになった際に役に立たなかったりすることになるリスクを抱えることになるのだ。せっかく契約書を交わすのであれば、自社にとって意味のあるものでなければならない。契約書ひな型は完璧ではないことをしっかり理解し、自ら判断することが重要である。
とはいえ、法的素養のない素人が一から勉強するのはナンセンスだから、上手に専門家(弁護士・司法書士等)を活用してもらいたい。後から発生するかもしれない不利益を予めヘッジし、利益を減らさないように手当てしておくことも経営者の役割である。
BisNavi201402月号掲載
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経営者保証に関するガイドライン①
平成25年12月5日、「経営者保証に関するガイドライン」が公表され、本年2月1日から適用となっている。
日本の中小企業経営者が、会社の事業について金融機関から融資を受ける場合、当たり前のようにその経営者は連帯保証をしなければならない。これは、事業を失敗すると、個人の財産(ともすると先祖伝来の財産も)を根こそぎ失うことを意味する。
確かに経営者のモラルハザード(失敗したら借りたお金を返さない)を防ぐ一定の役割を担っていたであろう。だが、一方で、失敗すると全てが終わり、という恐怖で萎縮してしまい、思い切った事業展開や失敗した事業の早期再生、再チャレンジに踏み切ることができないという側面があることも否めなかった。
日本政府は、こうした経営者による連帯保証という融資慣行について、様々な問題があると認識し、平成25年6月発表の「日本再興戦略」において、一定の条件を満たす場合に保証を求めないことや早期事業再生着手のインセンティブを与えることなどのガイドラインを策定することを明記した。これを受けて、ガイドライン公表後、現在すでに適用となっていることは冒頭示したとおりだ。金融庁は、様々な金融機関団体に対して、このガイドラインの積極的な活用を要請している。
経営者保証に依存しない融資の促進は、世界の金融常識にも合致し、喜ばしいことである。現在経営者保証をしている法人は、一定の要件はクリアしなければならない(ハードルは高い)が、保証契約の見直しを申し出ることもできる。
ガイドラインの内容は次号に譲るが、要件と言っても保証契約を解除するには当然の中身である。この大きな変化を「吉」と捉えて、情報収集を怠らず、将来的に保証を外せるよう努力したい。できる限りの情報提供はするので、気軽に問い合わせ頂きたい。
BisNavi201404月号掲載
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役員の任期はいつまで?
御社は、役員の任期管理がきちんとできているだろうか?
平成18年の会社法の施行以前は、取締役は2年、監査役は4年の任期が定められていた。しかし、会社法施行後、全株式に譲渡制限のついている非公開会社では、定款で定めれば、取締役及び監査役の任期は最大10年まで延ばすことができるようになった。それまで必ず隔年で役員変更登記が必要だったのが、家族経営的でそんなに役員異動のない中小企業にとっては登記コスト削減にも繋がりそうだから、この制度を導入(=任期伸長)した企業は数多い。そのほとんどは、10年にしているのが当職の実感だ。
ところで、パッと見て、平成28年までは大丈夫に思えるが、実は会社によっては注意が必要だ。というのも、会社法施行時点(平成18年5月1日)で役員である者については、当初の任期満了日までに任期伸長の手続(=定款変更)を行えば、任期を10年の範囲で延ばすことができたからである。
具体例を挙げよう。会社に、平成16年6月に就任した取締役がいた場合、その任期満了日である平成18年の定時株主総会終結までに任期を10年に伸長したとすると…新しい任期満了は平成26年の定時株主総会終結までとなる。つまり、今年。目前に迫っているのである。意外と10年は早い。
10年前のことなので、もし役員変更登記を忘れていたらどうなるか?最後の登記があった日から12年間経過した場合は、法務局が職権で解散の登記をすることになるし、法定期限までに行わなかったら、裁判所から「過料」を支払えという命令がくる。いずれもダメージはあるので、ぜひ管理を徹底いただきたい。
自社の役員任期がいつまでかお知りになりたい方は、いつでもご相談をどうぞ。
BisNavi201403月号掲載
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経営者保証に関するガイドライン②
前回は、「経営者保証に関するガイドライン」成立のアナウンスと成立に至る背景を記した。続けて、ガイドラインの概要を紹介する。カタい話が続くが、経営者が知っておきたい内容なのでご容赦頂きたい。
ガイドラインの概要は、以下のとおり。
1 保証契約時の対応
(1)経営者保証に依存しない融資の一層の促進
(2)経営者保証の契約時の金融機関の対応
(3)既存の保証契約の適切な見直し
2 保証債務の整理手続
(1)経営者の経営責任の在り方
(2)保証債務の履行基準
(3)保証債務の一部履行後に残存する保証債務の取り扱い
以上の概要を見ても分かるとおり、このガイドラインでこれまでの金融機関と保証人の関係は大きく変わると言っても過言ではない。内容をざっくり要約すると、
① 一定の要件を満たす経営状況にある会社の場合、経営者やその親族、後継者その他第三者による保証は認めない
② 金融機関は、保証契約の必要性について丁寧かつ具体的な説明を行い、過度でない適切な保証金額の設定をする
③ 既存の保証契約をすべて見直す
④ もし破産等する場合でも、経営者の手元に財産をできるだけ多く残せるよう検討する
の4点である。いずれも経営者にとっては重要な内容であることは間違いない。
ところで、ガイドラインそのものは、あくまで関係者が取り組むことが望ましいとされる指針や基準を示したに過ぎず、法的な拘束力はない。しかし、中小企業庁と金融庁が力を入れているだけあって、金融機関はこれに反する行動はできないだろう。やはり、しっかり情報を収集して、積極的に行動することが、自分自身ひいては自分の家族を守ることに繋がるのだ。確かに考えるのが面倒な事ではあるのだが、“もしも”に備えて「守り」も意識的に行おう。
BisNavi201405月号掲載
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経営者保証に関するガイドライン③
現在の中小企業経営者は、そのほとんどが法人の借り入れに対する保証をしているはずである。したがって、今回は、ガイドラインの中でも現経営者が関心を持つはず?の「既存の保証契約の適切な見直し」について少し詳しく見ていくこととする。
今年2月1日から施行されたガイドラインであるが、ありがたいことに、この日以前の保証契約も守備範囲となる。つまり、ガイドラインの要件に当てはまれば、保証契約の変更や解除など(見直し)を金融機関に申し入れることができるのである。
では、この要件とは、何であろうか?ガイドラインに書かれていることを挙げると、申し入れ前に、以下の3つの経営状況を作り出すことが必要とのことである。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
法人の業務、経理、資産所有などについて、法人と個人をはっきり分けることと、代表者貸付や役員報酬について、社会通念上適切な範囲にすること、こうした体制の整備や運用について外部専門家による検証を実施し開示すること、の3点。要するに、不当に会社の財産が個人に渡らないようにせい、ということ。
- 財務基盤の強化
財務状況や経営成績の改善を通じて返済能力の向上により信用力を強化すること。要するに、事業収益で返済できるように経営せい、ということ。
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
法人や経営者の資産負債の状況、事業計画、業績見通し、その進捗状況について情報開示を要求されたら、信頼性の高い情報を開示・説明すること。
以上の要件を満たす保証契約の見直しの申し入れがあった場合、金融機関は、改めて保証の必要性や保証金額について柔軟に検討し、その検討結果を具体的に説明することが求められている。これは非常に大きい。
経営に絶対はない。だから、もしものときに、家族が路頭に迷わなくてすむよう備えておくのも大事だ。この機会に会社経営を改善し、見直し申入れをチャレンジする価値はあると思うのだが、いかがだろうか。
BisNavi201406月号掲載
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株主を蔑ろにすると…
今年4月27日から毎週日曜に放送されたドラマ『ルーズヴェルトゲーム』。6月22日の最終回、経営陣と株主の争い、野球部の試合、商品採用コンペと手に汗を握る3つの逆転劇を見て、スカッとした方も多いことだろう。私も大変楽しく拝見した1人だが、職業上「?」と思うことも、特に株主総会に関して多々あった。が、そこは突っ込まず、今回は、株主に認められている権利について少し申し上げておきたい。
株主には、会社法第105条で、自益権と共益権の二つの権利が認められている。自益権とは、いわゆる「配当」を受ける権利であり、共益権とはざっと株主総会で投票する権利である。ドラマの株主総会は、総株主の議決権の10%を保有する株主から招集請求されて開催されたものだ。株式公開していない会社なら、3%以上を保有していれば、適法に株主総会開催を請求することができる。もし経営陣が請求を無視したとしても、株主側が裁判所の許可を得て総会を開くことができるため、開催せざるを得ない。しかも、株主は議決権の3%以上を保有していれば一定の事項を議案とするよう請求することもできるのである。
そして、これらの招集請求権や議案提案権を行使する株主は、きっと株主名簿閲覧請求権と取締役会議事録閲覧請求権も行使することだろう。ひょっとしたら、会計帳簿閲覧請求権なんかも行使するかもしれない。権利の名前を見たら意味がわかるように、会社は、株主の前では丸裸同然だ。ドラマの中で、会社は誰のものか?株主のものだ!というセリフがあったが、純粋に法律上の観点からすると、その発言は正しい。
だから、株主を蔑ろにしてはいけないし、舐めると大ケガすることになるのである。私たち法律家は上記の権利を最大限使って揺さぶりをかけることなどざらだ。青島製作所と同じように、株主構成の弱点を抱えていないだろうか?今のうちに現状把握と対策検討をしておこう。いつでも相談いただきたい。
BisNavi201407月号掲載
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他山の石?対岸の火事?
まだ記憶に新しいベネッセの個人情報漏えい事件。ベネッセがデータベースの運用と保守管理を委託していたグループ会社が、この業務をさらに複数の外部業者に再委託した先で発生したようである。
持ち出された情報は、少なくとも760万人分、可能性としては2070万人分と膨大なもので、流出データは少なくとも3つのルートから名簿業者など約10社に拡散し、通信教育サービス以外の交流サイト、出産や育児関連の通信販売サービスでも流出したとのこと。
個人情報漏えいがあった場合、企業に生じる責任は、①行政上の責任②民事上の責任③刑事上の責任の3つに分けられる。民事上の責任とは、あらゆる損害賠償義務だが、ベネッセのホームページを見てみると…この事件で、利用者の補償として200億円の原資を準備していることや受講料の減額を検討していることを発表している。一人当たりの賠償の金額は小さくても、合計するととんでもない額になる。
さらに、法的責任とは関係なく生じる株価の急降下(企業価値の減少)、大量の解約、苦情対応、一連の対応のための人件費支出、イベントの相次ぐ中止、新規会員の減少など、ベネッセが失った信用は計り知れない。
個人情報の漏えいは、だいたいは内部的な犯行であるので、いくら契約で縛ったとしてもなくなることはない。最終的にはモラル・道徳に頼らざるを得ない部分があり、その意味で法律は無力である。今回のようなシステム上の穴を作らないことや管理を徹底すること、再委託先社員に権限を持たさないこと、運用の監視を定期的に行うことはもちろんのこと、待遇不満などの声を聞き逃さないことも重要だろう。
この事件、うちは規模が違うから、そんなに個人情報扱っていないから、などただの傍観者として眺めるだけになっていないだろうか。この一件を他山の石として自社の情報管理について今一度見直すことが求められよう。
BisNavi201408月号掲載
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あの書類の保存、大丈夫?
ある会社に訪問し、これこれの書類を見せてくださいとお願いすると、そんな書類はないとかどこに片づけたか探さないと分からないと言われ、困ることがある。実は、会社は、いろんな法律で、多くの書類の作成と保存が義務付けられている。
例えば、会社が決算期を迎えると、その事業年度にかかる計算書類を株主総会で承認のうえ、税務申告をする(やってないところもあるかもしれないが…)。会社は、この一連の流れの中で、多くの書類を作成する。これらの書類のうち、どの書類について、いつからいつまで保存しなければならないか、ご存じだろうか?
作成・保存が義務付けられている書類は、大雑把に、①税務関係②労務関係③総務関係の3つに分けられる。いくつか例示すると…
①税務関係
計算書類及び附属明細書
取引に関する帳簿・証憑書類
源泉徴収簿
②労務関係
従業員の身元保証書
労働者名簿・賃金台帳
健康保険に関する書類
③総務関係
株主総会議事録
事業報告
株主名簿
などが挙げられる。やっかいなのは、同じ書類でも、法律によって保存期間が異なる場合があることだ。うっかり廃棄しないように気をつけよう。
とは言え、経営者が逐一保存書類や保存期間を覚えておく必要はなく、きちんと管理ができていればよい。コンプライアンス遵守のためにも、その部門の担当者に一度作成してもらい、専門家の目を通してマニュアル化しておけばよいだろう。なお、電子データでの保存が認められているものもあるので、スペースを無駄に割かないようにしたい。
BisNavi201409月号掲載
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自社株信託のススメ①
去る平成19年9月30日、従来に較べ多様化・柔軟化が図られた新信託法が施行となった。
この法律を用いて、中小企業庁から公表されているスキームの一つに「遺言代用信託を活用した自益信託」というものがあり、これを応用したものが事業承継で活用できる「自社株信託」である。ちらほらと雑誌や新聞などで記事が出ているので、目にしたことはあるかもしれない。
中小企業の事業承継の場面では、オーナー社長が持つ自社株を、いつ、どのような手法でどの程度を後継者に移転するか、に頭を悩ますことが多い。株式は、会社の経営権の裏づけとなるものであるから、おいそれと手放すことに抵抗感はある(株を後継者に握られると役員の地位が危うくなることもある、後継者の経営判断・手腕にやや不安が残るなど)ものの、株式の時価評価額の絡みで、税法上もっともメリットがある時期に移転したいのも人情であろう。
ところで株式は、「経営権」と「財産権」の二つの性質を持つ。したがって、株をオーナー社長から後継者に移転するとき、税法の観点からの検討やキャッシュアウトができるだけ少なくなるようなプランニングが欠かせないし、オーナーの意識もそこに向いていることが多い。一方、経営権の観点から見ると、経営判断の停滞を招かない円滑な株式の移転と、経営の安定のための後継者への集中を図ることが重要と考えており、そのための手法を検討することになる。株式を移転する手法そのものは、贈与・売買が一般的だが、これに遺言を組み合わせることもあるし、株を種類株に変更した上で贈与・売買・遺言を行うことも考えられる。
上記の移転の手法に加えられるのが、冒頭の「自社株信託」スキームである。事業承継を考えている経営者は、必ず一度検討することをおススメする。信託の内容については次回詳述する。
BisNavi201410月号掲載
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自社株信託のススメ②
事業承継は、企業経営の大きな課題であるにも係わらず、手当てをしている中小企業は数少ない。後継者候補がいない、利益が乏しい等の理由がある場合はさておき、そうでないときは早急に着手することが望ましい。その際に頭を悩ますのが株の移転である。
自社株は経営権・財産権の二つの側面を持つから、現経営者が一括して移転するのには勇気がいる。じゃあ、その二つを分けて対処しよう!というのが、自社株信託だ。
信託とは、簡単に言うと、財産の「所有者」の持つ財産を、「管理者」に移転し、その受託者が管理又は処分して得る利益を、「利益享受者」に渡す契約である。登場人物は原則この三者だが、所有者が利益享受者を兼ねることもできるし、所有者が管理者を兼ねてもよい。(ただし、所有者=管理者=利益享受者の形態は原則NG)しかも、契約内容そのものは、かなり柔軟に設計できる。
例えば、自社株の評価額が低いうちに後継者に株式を移したいが、経営権は手元に残しておきたい、と思っていたとしよう。信託契約を使うと次のような設計が考えられる。
1.プランA(将来型)
株式を①財産としての受益権②経営権、に分け、株式の所有権は後継者(管理者)に移転し、①②は現経営者(利益享受者)に残した上で、①を評価額が低いうちに後継者に売買・贈与し、②は現経営者の死亡や認知症を理由として後継者に渡す、という設計
2.プランB(即効型)
株式の権利を2つに分けることはプランAと同じだが、管理者をそのまま現経営者とし、①の利益享受者を後継者、②を現経営者に残す、という設計
他にも、現経営者に相続人が複数名いるときは、別途法人を設立して管理者とし、①は各相続人を利益享受者にする、など遺留分に配慮した設計もでき、個々に置かれた事情に応じた対応が可能だ。
自社株の移転や事業承継を考えるときに、信託があったなと思い出して頂ければ幸いである。
BisNavi201411月号掲載
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上場企業だけ?株主代表訴訟
だいたいの経営者は、商売のことも税金のこともよく勉強しておられるが、こと会社法となると、自分は関係ないものと思い込み興味が薄い。
しかし、その認識は大間違いで、上場企業だろうが中小企業だろうが株主の権利に変わりはないため、勉強は必須である。
ところで、株主代表訴訟とは、役員が株式会社に損害を与えるも、その役員に対する責任追及を怠っている場合に、会社に代わって株主が役員に民事責任を追及し、会社が受けた損害を賠償させるための訴訟を言う。会社の閉鎖性や役員同士の馴れ合いから、不正がうやむやとなりがちなので株主個人が責任追及できることになっているのだ。
・訴訟コストが安い
・株主勝訴の場合は訴訟費用を会社に請求でききる
・役員による会社資産の私的流用が行われやすい
・親族関係者は、会社の内情を知っている
・感情のもつれが生じやすい
・株主総会をしていないなど法令違反が多い
こうした理由で、同族会社が多い中小企業で株主代表訴訟が起こされる。実は、株主代表訴訟の8割は中小企業とも言われている。
例えば、兄妹で経営している会社で、社長である兄が投資に失敗して会社に与えた損害を株主でもある弟が訴えた、個人的な飲食を接待交際費として会社に払わせた分を損害賠償させた、などの事例もある。ただの嫌がらせとして訴えてくることもあるので、気が抜けない。
まっとうに経営し株主代表訴訟を起こされないようにしておくことはもちろん、くれぐれも株主構成と株式の分散には気をつけておこう。もし、現在、株式分散している状態にあるなら、それを是正しておくのも重要な対策だ。いつでも相談いただきたい。
BisNavi201412月号掲載
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企業オーナーの相続対策
あけましておめでとうございます。本年も経営者の皆様の参考になるような記事を執筆してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。「法務」は確かにとっつきにくいですが、企業経営の際、知らないでは済まされないものでもありますから、記事の内容程度は把握しておくようにしましょう。
さて、今月から数か月は、「法改正」をテーマに取り上げます。最初は、今年1月1日から施行された相続税・贈与税の改正に関する影響についてです。
新聞、雑誌やニュース等で取り上げられていますし、顧問税理士や保険の営業マンが情報を伝えていることも多いので、大多数の方は、相続税が「変わった」ことは知っていることでしょう。復習がてら、相続税で大きく変わった点を挙げると、①基礎控除額の減額②税率の変更③税額控除の引き上げ④小規模宅地の特例の内容変更の4つです。ですが、この改正によって「経営者がやっておかなくてはならないこと」をきちんと認識し、実際に行動されている方はごく少数だと思います。
では、実際に、いま何をしたらいいのでしょうか。
相続にあたって考えるべきなのは、①経営の安定②争族の予防③余計なキャッシュアウトの予防④納税資金の確保の4点です。そして、これらを考える上で、企業オーナーがお持ちの自社株の評価額を含めた全資産の情報と、親族関係の情報が重要です。
よって、現在経営者が行うことは、これらの情報を収集すること、相続や事業承継に長けた法務の専門家(司法書士・弁護士)・税務の専門家(税理士)と現状の問題点及び対策を協議すること、の2点となります。
ポイントは、税務上も法務上も自社株をどうするか、です。正確な情報に基づいて、現状の把握を行い、目的(上記経営者が考えるべきこと)達成できる対策を立て、実行するには、とにかく時間がかかります。
すぐに始めましょう!
BisNavi201501月号掲載
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「簡単虫よけ」は不当表示?
テレビや新聞で大々的に報じられていたのでご存知の方も多いと思いますが、虫コナーズや虫よけバリア、虫よけネットなどの空間用虫よけ剤を販売する大手4社に対し、消費者庁は、景品表示法(有料誤認)違反で措置命令を出す検討に入っているとのことです。
一般消費者は、誰もがよりよい商品やサービスを求めるところですが、消費者が購入の拠り所とするのは、事業者側が提供する情報が大部分だったりします。
事業者がモノやサービスを販売する場合、チラシやカタログ・商品のパッケージを作ったり、ポスター・看板による広告や新聞・インターネットによる広告を行ったりします。
とすると、当然売らんがために、実際の品質、内容や価格等を偽って表現する良からぬ広告が出てくるのは想像に難くないでしょう。
こうした事態を防ぎ、消費者の利益を保護するために、様々な広告媒体に書かれた表現(表示)について規制する法律が必要になります。これが、景品表示法です。
景品表示法で不当表示として規制されるのは、冒頭にあった優良誤認表示(例:カシミヤ混用率80%なのに、カシミヤ100%と表示)・有利誤認表示(例:他社商品の1.5倍と書いていたが、実際は同程度だった)などがあります。事業者がこの規制に違反すると、消費者庁から「措置命令」を受けることになりますが、実質的な痛み(キャッシュアウト)に乏しいところに難がありました。
ところが、平成26年11月に景品表示法の改正が成立し、新たに不当表示規制に違反した制裁として「課徴金納付命令」を課すことができるようになったのです。どの程度の課徴金かというと、対象商品・サービスの売上額の3%相当額(過去3年間分)となっています。
実際の改正法の施行は、平成28年5月までの間で政令に定める日ですので、まだ先ですが、こういう法改正の動きがあることは早くキャッチして、上手く自社の広告表現の見直しに活かしましょう。
BisNavi201502月号掲載
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雇用主には重い負担の法改正!?
皆さんの会社では、パートタイム労働者(企業によってパートタイマー・アルバイト・嘱託・臨時社員・準社員・スタッフ・クルーなど呼び方は様々だが、要は、正社員より所定労働時間が短い労働者のこと)を雇用しているでしょうか?
ご存知のように、パートタイムで働く人が増加していますが、仕事内容は正社員と何ら変わらないのに賃金は安い、という状況も多いようですから、国は、
・パートタイム労働者の公正な待遇の確保
・パートタイム労働者が納得して働くことができる環境整備
を目的としてパートタイム労働法と規則を改正し、今年4月1日から施行されることになりました。
重要な改正点は、以下のとおりです。
1.差別待遇が禁止される労働者の拡大
2.「短時間労働者の待遇の原則」の新設
3.雇入れ時の事業主の説明義務の新設
4.相談窓口の体制整備・周知
5.罰則規定の新設
つまり、今回の法改正は、正社員と同じ働き方をしているのに、短時間労働者であるという理由だけで給与や教育訓練等の待遇面で差別することを禁じるものであって、これに違反し続けた場合には社名の公表や罰金などの制裁が課される、というものです。
企業側は、勤務時間の長短だけで差別することは許されず、労働の内容に応じて待遇を決定しなければなりません。しかも、それに
対して説明責任も負うことになったため、説得力の無い賃金規定を置き続けることはリスク以外の何者でもありません。
アベノミクスで少しは持ち直した中小企業もあるでしょうが、経営環境が良いとは言いがたい現状においての法改正となり、企業側としては厳しい内容であることでしょう。とは言え、決まってしまったものには対応するしかありません。
ポイントはいくつもありますので、専門家に相談しつつ進めるのがベターです。
BisNavi201504月号掲載
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役員変更登記にご注意を!
ご存知だと思いますが、株式会社では、役員(取締役、監査役等)が就任や辞任・解任などをして役員更正に変更が生じた場合は、その旨の登記をすることが義務付けられています。
この役員変更について、会社法や法務省令等の変更によって、今までの取り扱いが変更になる部分がありますので、大多数の会社に当てはまるであろう重要な点を以下ご案内します。
1.役員の就任(再任を除く)
【改正前】就任承諾書(認印可)のみ
【改正後】就任承諾書に加えて、本人確認証明書の提出が必要になります。本人確認証明書とは、住民票・戸籍の附票・運転免許証の写しなどです。
2.代表取締役の辞任
【改正前】辞任届(認印可)のみ
【改正後】①辞任届に代表取締役個人の実印を押印し印鑑証明書を添付する、または②辞任届に会社実印を押印する、のどちらかが必要となります。
3.監査役
定款で、監査役の監査の範囲を会計監査に限定している旨を定めている場合
【改正前】登記する必要なし
【改正後】登記する必要がある。ただし、この登記は、平成27年5月1日以降に監査役が就退任(再任含む)するタイミングで行うことになります。
4.役員の氏名
女性が結婚によって姓が変わったとき
【改正前】変更後の姓に変更が必要
【改正後】変更後の姓に変更は必要だが、登記申請時に戸籍謄本を添付し申出を行うことで、結婚前の姓を記録することができます。
実は他にもたくさん改正点はありますが、この程度を抑えておけば、自社で登記を行う際に役に立つでしょう。司法書士は登記の専門家ですので、不明な点はいつでもお問合せください!
BisNavi201503月号掲載
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3年後、契約ルールが変わるかも
今年2月下旬に各メディアで取り上げられたことから感度の高い方はご存知かと思いますが、企業や個人の契約ルールなどを定めた「民法(債権関係)」の改正が現実味を帯びてきています。日本政府は、3月31日に民法改正案を衆議院に提出していて、今国会での成立を目指しています。仮に、今国会で成立した場合、早ければ平成30年を目途に施行される見通しです。
今回のような民法の大幅な見直しは、明治29年の制定以来初めての出来事で、5年かけて議論が進められた中で改正項目は200以上に及び、多様化した現代社会や経済情勢の変化に対応して国民に分かりやすいようルールの透明性を高めるのが狙いです。各新聞紙面では、勢いよく「消費者保護」というフレーズが踊っていますが、かなりミスリードの感が強く、実際には基本ルールの整備以上でも以下でもありません。
大きな改正点の一つに「約款に関する規定」があるので、そのような誤解を生じているものと思います。約款を巡っては、経済団体との間で一悶着ありましたが、インターネットでの買い物が一般的になっている中で、消費者が約款をほとんど読まずに契約し、トラブルに発展するケースが相次いでいることが背景にあって、法的な位置づけが曖昧なことから今回明文化する流れになっているところです。この約款規定、影響が大きい部分ですので、企業としては、動向に注意を払っておくのは当然のことと言えます。
3年なんて、そんな先のこと…と思われるかもしれませんが、上記の約款も含め契約ルールの大幅な見直しであるため、いざ施行されてからでは、まず対応が間に合いません。新しいルールに適合できるよう3年かけて徐々に社内の契約書の整備や業務の改善を進めましょう。あ、もちろん国会で改正案が可決してからで構いません。
BisNavi201505月号掲載
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従業員による自動車事故
6月1日から、改正された道路交通法が一部施行されます。これは、自転車の運転者に関するもので、もしかすると会社でどうこうすることはないかもしれません。ですが、年々自動車事故に対して世間の目が厳しくなっているのは皆様ご承知のとおりです。道路交通法は頻繁に改正されており、罰則はどんどん引き上げられています。
こうした状況下において、もし不幸にも従業員が自動車事故を起こした場合、会社としてはどんな責任が生じるのか把握しておられますか?
会社が所有する車で事故をした場合、通常自動車損害賠償保障法の規定によって、会社も損害賠償責任を負います。また、従業員が仕事中に事故を起こした場合、民法の規定によって、会社も使用者責任として損害賠償責任を負うことになるのです。
従業員が起こした事故とは言え、高額な損害賠償を請求されるケースがありますから、対人無制限の保険をかけておくのは当然のことと言えますが、できるだけ保険を使わなくていいようにするには、毎日の地道な取り組みを積み重ねるしかありません。
例えば、法律上の義務(点検整備、整備記録簿の備付、定期点検など)を果たしておくこと、安全運転教育や従業員の健康管理を徹底すること、社内の自動車管理規程や使用規程の整備をすること、就業規則を整備すること、などが挙げられます。
あまりないけど、あると影響が大きいのが交通事故です。事故を起こしても、会社も、従業員も、相手方も、何一ついいことはありません。事後の対応いかんによっては、会社の信用にキズがつくことだってあり得るのです。朝礼で、運転中にヒヤリハットした事例を話すなど、安全運転について考える機会を設けたいものですね。
BisNavi201506月号掲載
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パワハラの線引きは?
「うちの上司がうるさくてさ~『なんでこんな簡単な事ができないんだ!』『何遍も同じこと言わせるな!』『辞めちまえ!』とかおっさん何様やっちゅーねん。」
「それくらいだったらまだいいじゃん。俺なんか営業ノルマが未達のときは、もっとくそみそに言われるぜ。ムカつくわ!」
休日前の居酒屋でこのような会話を耳にすることも少なくありません。
皆さんご存知の「パワハラ」は、職場での地位に基づき、権限を濫用・超越した嫌がらせと定義されます。上司が部下に対して行うのが典型例ですが、一口にパワハラと言っても、その内容や程度は数限りなくあります。
相談を受けている中には、その程度で!?と思うこともありますが、本人にとっては深刻です。昔の体育会系のノリは時代遅れであることは確かでしょう。
パワハラを行った本人が悪いのは当然ですが、会社がパワハラを放置していたと認定されると使用者責任や安全配慮義務違反に問われ、損害賠償が必要になりますし、そのことが広まるとイメージダウンもあり得ますから、会社としても見て見ぬフリはできません。
過去の裁判例を紐解くと、暴行・脅迫はもちろんのこと、仲間はずれや無視、上司の私的な用事を頼むことなどもパワハラと認定されています。上司からすると、日常業務の中で部下のミスを叱責することは当然のことでしょうし、指導とパワハラと何が違うのか頭を悩ますことがあると思います。指導について、正当な業務の範囲を超えると判断されるポイントは、①執拗か②人格否定となる侮辱的なニュアンスか③叱責の場所や時間④部下の落度の程度、などです。
いちいちこんなことを考えて叱責するのも憂鬱なことかもしれませんが、ご自分を守るためにも気を付けておくことをお勧めします。
BisNavi201507月号掲載
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勤務中の私用メールはダメ?
会社の業務用のパソコンを使って、全く業務と関係のない用件で、家族や友人知人と連絡を取ってしまう、インターネット接続状況を利用して、フェイスブックのタイムラインを眺めたり、ショッピングしてしまったり…そんな従業員は、はっきり言って、多いと思います。
報道されているように、従業員のパソコンからウィルス感染したり、営業秘密や顧客情報が漏れたりすることもあり得ますので、最近では私用メールの送受信を会社側でコントロールする動きも広がっているようです。
私用メールが元で上記のようなことが起こってしまった場合、経営者の皆さんがその従業員を懲戒したくなるのも、私も経営者の端くれですので理解できなくはありません。
しかし、懲戒は法律上許されるのでしょうか?裁判例を見てみますと、第三者からアドレスを閲覧可能な状態にしたことで、会社の対外的名誉や信用を傷つけるものだから懲戒解雇やむなしとした事例や1日に1~2通程度の使用メールを送受信しても職務専念義務に違反しないとする事例などがあります。ただ、その会社の就業規則で、たとえ1通でもアウトであるときっちり定めたならば、職務専念義務違反に問えるものと思われますので、そうした文言があるか点検されてはいかがでしょうか?
一方、会社が従業員の私用メールを監督する目的で、メールチェックする行為は許されるのでしょうか?この点、件名を見て勝手に開いて見る行為は、手紙を勝手に盗み見るのと同じコトですから、プライバシーの侵害とも言われかねませんね。裁判例では、業務に必要な情報を保存する目的で行われた会社のサーバー上の調査であり、調査する合理的目的がある場合は、プライバシー権を侵害する違法行為とは言えないと判示しているものがあります。
従業員が私用メールをしていたら頭にくることもあると思いますが、注意ならまだしも、懲戒解雇など法律行為を行う場合は、必ず専門家にご相談ください。
BisNavi201508月号掲載
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海外進出の法的リスク
昨今、日本企業の海外進出が増加しています。
儲かりそうだから、と安易に手を出す経営者もいらっしゃいますが、日本国外、特にアジア新興国においては、様々な法体系が存在することから、日本では考えられない思わぬトラブルに見舞われることがあり得ます。トラブルを防ぐためには、法務リスクのマネジメントが、より重要となるのはご想像のとおりです。
新興国では、スムーズな取引や便宜を図ってもらうために、現地公務員に対する贈収賄がありがちですが、近年これに対する摘発・厳罰化が相次いでいます。汚職に加担したとなると、企業の信用やブランド価値を落としてしまうため、このリスクへの対応は必須です。では、どのように贈収賄リスクをマネジメントすればよいのでしょうか?
まずは、以下に従って危険性の度合いを計ることが肝要です。
1.国や地域
2.贈収賄を規制する法制度
3.業種
4.取引規模
5.取引内容
海外進出の折や事業展開の際に、よく分からないからといって、現地のコンサルタントや現地コンサルタントと提携している日本企業と契約を行うケースがありますが、報酬の一部が現地公務員の手に渡るなど、知らず知らずのうちに、贈収賄に加担している可能性がありますので注意が必要です。各国の当局は、コンサルタント等第三者を通じた贈賄に目を光らせていることを念頭においておきましょう。
紹介者は誰か、報酬の多寡、業務内容、業務内容と報酬の対応関係などをしっかり見極めることが大事です。
BisNavi201509月号掲載
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大丈夫?マイナンバーへの対応
ご存知だとは思いますが、今月から各家庭へのマイナンバーの通知が始まり、来年1月から利用開始されます。いよいよ目前に迫ってきた感があります。
最初は、「社会保障」「税」「災害対策」の3分野でのスタートとなり、企業においては、社内規程の見直し、業務フローの構築、安全管理措置やシステム見直しなど様々な対応が求められます。
それはそうなのですが、そうした対応の前に、ぜひ自問自答していただきたい質問があります。それは…「税金や社会保険料の支払を何かしらごまかして処理していないか?」
収益が足りず又は意識が低くて社会保険料の不払いをしていたり、収益が上がったために又は納めるのが嫌で脱法的に節税行為(「脱税」とも言う)をしている企業は、実は、ご想像どおりたくさん存在しています。もちろん皆さん何食わぬ顔をしていますけれども。
しかし、マイナンバー制度が始まってしまうと、今までよりもっと精緻に企業や個人の所得や税金・社会保険料の支払・受給の状態が自治体や国に把握されてしまうことになりますから、ごまかすことができなくなります。
ごまかしていたのが発覚したら…例えば、社会保険未加入の企業があったとしたら、ペナルティとして2年間の追徴金の支払のみならず罰金の支払も併せてしなければならないかもしれません。脱税なんぞしていたら、延滞税や加算税もあり得るし、下手すると刑事犯にもなりかねません。
本紙をご覧の皆様は優良な方々ばかりでしょうから、ごまかしはなさっていないと思いますが、万が一心当たりのある方がいらっしゃいましたら、「マイナンバーによる発覚倒産」とならないよう早め早めの対応をしておきましょう。要は、今のうちに身綺麗にしておけということです。
あ、他にも、会社に黙って副業をしていることが発覚するケースなども増えるでしょうから、該当する方はご注意を。
BisNavi201510月号掲載
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マイナンバー対策、何をすればいい?
制度利用開始(平成28年1月)まで、あと2か月となり、マイナンバーについてメディアで目にしない日はありません。皆様の会社では、少しずつこの対応を始めている、といった状況でしょうか?
今回は、対応を行っている会社は確認として、まだ対応を始めていない会社は指針として利用できるよう、導入時に最低限行うことを以下まとめてみます。
1.マイナンバーを受け入れる必要のある事務のピックアップ
だいたいは、税務・労務に関する書類になります。
2.事務取扱担当者の決定
担当部署でも構いません。その場合は、責任者を決めておきましょう。
3.本人確認方法の手順決定
従業員や取引先等からマイナンバーを受け入れる際は本人確認が必要ですので、何の書類で確認するのかや手続の流れをまとめておく必要があります。
4.社内規定の整備
ガイドラインでは、原則として「基本方針」や「取扱規程等」を定めるよう要求されています。
5.従業員・取引先に対する周知
通知カードの保管やマイナンバー提供、本人確認への協力のために必要です。
6.就業規則の見直し
服務規律・懲戒事由・届出などの変更が必要と思われます。
マイナンバー関連の不祥事も報道されていますが、会社がマイナンバーを漏えいした場合、行政処分や刑事罰を受けることや、損害賠償(慰謝料)の請求を受けることが予想されます。扱う人、扱う場所やパソコンを決めたり、ウィルス対策ソフトの導入やパスワードの定期的な変更など考えられる対策は必ず行っておきましょう。従業員や取引先のマイナンバーに関する安全管理を組織的に行うことは、本当に大事なことです。
BisNavi201511月号掲載
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ある社長の遺言
遺言とは、死後において自分の意思を反映させることができる数少ない法的手段の一つです。必要だとは頭では分かっているけど、実際に遺言作成という行動に移す方は、数少ないものです。私が経験した、ある会社の社長の遺言にまつわる話をお伝えします。
税理士さんに紹介されてお会いした従業員20名ほどを抱えるその会社の社長は、60代前半の創業者で、会社の株式を100%保有していました。後継者(子供がいなかったため親族外の社員)を育成中であるとの話を伺い、相続人調査したところ、親族関係が少し複雑なこともあり、もしものことがあったときに遺言が無ければ、株式や会社資産の相続の問題で会社の存続が危ぶまれる事態に陥る可能性があることが想定されました。このことを説明したうえで、人間いつどのようなことがあるか分かりませんから現時点でベターと思える遺言を早急に作成した方がいい旨を進言しましたが、理解は示すものの現在は元気だし、いずれはちゃんとしたものを作りたいとのことでした。
そのことがあって半年後、社長の体調が思わしくないため病院で検査を受けたところ、処置できないほど病気が進行しており、即入院。余命宣告を奥様が受けたものの、内容は社長に告げられぬまま病床にありました。奥様から連絡を受けた私たち専門家や銀行担当者は、すぐさま遺言を作成しましょうと訴えましたが、仕事に復帰できると信じて闘病している夫にそんなことは言えないと号泣されましたので、それ以上強くは言えませんでした。結局、何の手も打てないままその社長はお亡くなりになりました。懸念したとおり相続でトラブルに発展し、ごたごたした会社は業績が急激に悪化し、櫛の歯が欠けるように従業員も辞めていき、最終的には…。
遺言作成には、タイミングというものがあり、時機を逸すると大変なことになる典型例です。普通に考えて、入院中に遺言を書けと周りは言えるものではありません。年齢は関係なく、元気なときにまずは一度作成する、ことが肝要と思います。変更はいつでもできますので。
BisNavi201512月号掲載
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元従業員による顧客情報持ち出し
ある会社の社長から「退職した従業員が顧客情報の一部を持ち出して、再就職先で利用しているようだ」との相談を受けました。
厳重な情報管理をしている会社でしたから、データの持ち出しではなく、勤務中に隙を見てメモをしていたくらいとのことでしたが、会社の信用にかかわるため、発覚早期にきちんと対処する必要があります。
では、元従業員に対して、法的にはどのようなことができるのでしょうか?
①不正競争防止法
顧客情報が営業秘密(秘密として管理されている事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの=顧客情報も適切に管理されている限り営業秘密と考えられる)にあたる場合、同法を利用して差止請求や損害賠償請求ができる可能性があります。
②民法(債務不履行)
要件を満たさず不正競争防止法を利用できない場合は、民法の規定を使うことになります。労働契約や就業規則で、業務上の秘密保持義務が具体的に課せられていると認められているときは、民法415条に基づき、差止請求や損害賠償請求を行うことができると考えられます。
③民法(不法行為)
もし労働契約や就業規則で明確に秘密保持を約定していない場合であっても、不法行為に該当するときは、民法709条に基づき損害賠償請求することができると考えられます。
一つ裁判例を紹介します。美容室の店長だった元従業員が顧客カードを持ち出し、会社が損害賠償を求めて提訴した事案で、顧客カードの管理が杜撰と判断されたため不正競争防止法の適用が認められず、不法行為を根拠に損害賠償請求が認められています。
マイナンバーの送付もあって、最近個人情報に関する国民の意識の高まりを感じます。営業秘密(顧客情報含む)の管理に、「完璧」はありませんから、いざというときに法的対処ができるようポイントを押さえた適切な管理を行っておきましょう。
BisNavi201601月号掲載
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代表取締役の解任
「前社長が死亡した後に、その息子が代表取締役となる登記手続きを勝手に行った」
「代表取締役が会社のお金を使い込んでいるみたいだ」
「代表取締役に経営を任せていたが、役員報酬は高いのに、会社は赤字の状態である」
背景は違いますが、2月に入って、たまたま同じような相談が続きました。要するに今の代表取締役をこのままにしておくと支障があるから何とかしたいという話です。
その代表取締役が自主的に辞任するのが一番望ましいですが、当然そんなことはなく又は期待できないので、法的にどげんできるとや?ということになります。
株式会社は、株主が株主総会で取締役を選任します。同じように解任(取締役の地位から強制的に退かせること)も株主総会で行うことができます。しかしながら、法的観点から見ると容易なことではなく、注意すべき点が多々ありそうなのは想像できるでしょう。
合法的に解任するためには、法律に則った手順を踏んで株主総会を開き、決議することが求められます(手順に則ってないと後から無効になる)。株主総会は、まず招集するところから始まりますが、少なくとも確信犯的に冒頭の悪事?を行っている代表取締役は抵抗を示し株主総会を開きません。そうすると、株主は裁判所に招集許可申立を行い、許可決定を得て自分で株主総会を開く必要が出てきます。なお、ここまでで数か月は経過しています。
結果としては、決議できるほどの株式を持っている株主であれば、代表取締役を解任することはできます。ただし、代表取締役がしでかしたことの責任追及(損害賠償請求)は別問題ですので、分けて考える必要があります。
実は、この解任手続、定款が重要な役割を果たします。他人に経営を任せようとする方は、万一何かあったときに迅速に対応できるような定款に最初からしておくことをお勧めします。
BisNavi201603月号掲載
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未払いの残業代はないか?
皆さんご存知のとおり、ここ数年、各種メディアで残業代を支払わない会社の存在が問題視されています。確かに、法律相談の現場で、少なくとも私がサラリーマンの時代と比べて、格段に労働者側の権利意識が強くなっていると感じます。インターネットにより情報を簡単に取得できるようになったため、我慢せず自分の権利として未払い残業(サービス残業)代の支払を求める人が増え、これを手助けする司法書士・弁護士等の法律専門家も増加の一途をたどっています。
未払い残業代の発生の原因は、
・労働時間を管理していない
・必要な文書の作成や届出をしていない
・労働時間が週40時間を超えている
・割増賃金の計算が間違っている
・年次有給休暇の管理を行っていない
・管理者の地位にない者を便宜上管理職としている
など多岐にわたります。 適切に残業代を支払わないと、例えば、法で認められている過去2年分の残業代を請求され、それと同額の「付加金」の請求を受ける、つまり本来の残業代の倍額を支払わなければならなくなることが考えられます。しかも、その話を聞きつけた他の従業員からも請求されることもあるかもしれません。さらに、支払いを遅延しているわけですから、遅延損害金14.6%を請求されたり、慰謝料を請求されたりもします。法律専門家が入ってくるとこうした事態が起こり得ます。想像しただけで頭が痛くなりますね。あと、あまり知られていませんが、時間外労働等の不払いについては、6か月以下の懲役・30万円以下の罰金という刑事罰の規定もあります。
私も小さいながら一経営者なので、皆さんのご苦労はお察ししますが、残業代の未払いはこじらせると厄介な地雷がたくさんありますので、少なくとも従業員が今何も言っていない、という現状に甘んじることだけは、やめておきましょう。
BisNavi201604月号掲載
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地震が発生!労務への影響は?
4月14日以降、熊本県及び大分県で連続して大きな地震が発生しています。日本全国から各種の支援が集まっていますが、復興まではまだ時間がかかるものと予想されます。
こうした大きな地震が発生した後、復興又は廃業に向けて企業は様々な局面を迎えますが、労務の観点から考えられる影響を見てみます。
1.従業員の休業
震災により大きな損害が生じ、企業が操業停止に陥った場合には、従業員に対し休業を命じる必要があります。この点につき、「使用者の責に帰すべき事由」に該当しない(例えば、地震などの不可抗力)なら、休業手当を支払う義務はありません。ただし、適切な震災対策を取っていなかったことによって従業員に休業を命じなければならない事態に陥ったとしたら、平均給与の100分の60以上の休業手当を支払う必要が出てきます。
2.従業員の労災
従業員が勤務中に被災した場合、いわゆる業務起因性(けがと業務に因果関係がある)がないため、原則として労災の対象にはなりません。ただし、例外があり、仕事のために特に天災に遭いやすい状態にあった場合にはその程度により業務起因性が認められ労災の対象となってしまいます。
3.従業員の労働時間
企業の継続や復興のためには、従業員に対し決められた労働時間以上に働いてもらわねばならないかもしれません。こうした場合、行政官庁の許可を得るか又は労働組合か労働者の過半数を代表する者との書面による協議を経て行政官庁に届出を行うことで、臨時的に労働時間の延長や休日労働を命じることができるようになります。
以上、労務の観点からどんな影響があるかその一端をお伝えしました。地震対策は、発生時期も規模も予想が極めて困難です。しかし、一度適切な対策を講じてしまえば、ずっと使えるものですので、もしまだ何も手を付けていないところがありましたら、一度検討することをお勧めします。
BisNavi201605月号掲載
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10月から会社登記で●●が必要に
社歴が長い会社ほど要注意です!!今年の10月1日以降、株主総会議事録を提出する必要のある各種登記申請の際には、株主情報の添付が求められることとなりました。地味に重要な省令改正です。
株主情報は、株主名簿を基に作成します。株式会社では、株主名簿を作成して、それを本店に備え置かねばならない、と会社法で定められています。しかし、上場会社を除く大半の中小零細な株式会社では、株主が親族だけ・少数であるなどの事情から、そう頻繁に株主が変わることもなく、そもそも作成の必要性や動機付けが乏しい現状と言えます。はたして、どれだけの企業が備え置いているものでしょうかね…
ところで、株式会社が役員変更や定款変更をして現在登記されている事項に変更があった場合、変更登記しなければなりませんが、添付書類として株主総会議事録が必要になります。議事録は簡単に作成押印できてしまうため、本当は株主総会を開いていないのに開催したことにするなどして、株主の知らないところで勝手に登記が変更されていることが多々あるって皆さんご存知ですよね?
今回の省令改正の意図は、不実の議事録作成を抑制することと、不実の議事録が原因で裁判等になった場合の証拠保全にあるものと思われます。不実の議事録をもとに不実の登記をさせた者は、「公正証書原本不実記載罪」という立派な一般刑法犯(5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)にあたりますから、今後はあまり適当なことはしない方が身のためでしょう。
法人税申告書別表二に、株主の記載がなされていますが、現実と乖離していることもあります。また、連絡が取れなかったり、当初の株主が亡くなり相続が発生していたり、所在不明の株主がいらっしゃることもありますから、この機会に株主名簿の作成または再整備することをお勧めします。とにかく早めの着手が望ましいのは間違いありません。
BisNavi201607月号掲載
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経歴詐称が発覚したら?
数か月前にワイドショーを賑わせた○ョーン○氏の経歴詐称報道、覚えておられる方も多いでしょう。彼を起用したテレビ番組が複数あるにもかかわらず、なぜテレビ局はウラを取っていなかったのか、謎です。
それはさておき、社員を中途雇用する場合に、その人の経歴(能力や専門的知識も含む)を重視して採用したときは、経歴詐称は会社にとって重大な問題となり得ます。入社前にしっかりチェックして事前にはじくことができればいいのですが、入社してしまったとしたら…どうしたらいいのでしょうか?
入社後に経歴詐称が発覚したら、一般的には、「解雇」対応になるでしょう。ただ、解雇と一口に言っても、普通解雇(信頼関係が破たんしたことによる雇用契約解除)と懲戒解雇(非違行為に対する懲罰的な意味あいでの雇用契約解除)の2つがありますので、状況に応じてどちらかを選択することになります。
特に、懲戒解雇は、従業員というより労働者にとって非常に重い処分ですから、全ての場合で懲戒処分とできるわけではないことに注意が必要です。裁判例によると「真実を告知したならば採用しなかったであろう重大な経歴」にあたるか否かを判断の基準にしているようです。
また、経歴詐称はあったかもしれないけど、詐称せずに真実を告知していたとしても採用された可能性が高い場合や、その会社の業務に影響しない経歴であった場合は、解雇権の濫用として懲戒処分が無効とされた例もあります。
中途採用は、経歴を見込んでのものでしょうから、その経歴に詐称があれば、会社・従業員のどちらもいいことはありません。採用する場合は、その経歴の証拠となる何かを求めることは、最低限行っておきましょう。
BisNavi201606月号掲載
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自然災害発生時にどう動く?
日本では、ここ20年、阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災、熊本地震などの地震災害や火山の噴火、土砂災害が数多く発生しているのはご承知のとおりです。
では、自然災害発生時に企業がどのように対応しなければならないのか、又はどのようにリスク対策すべきなのか、法令の定めを少し見てみます。
1.災害対策基本法
防災上重要な施設の管理者は、法令又は地域防災計画の定めに基づいて誠実にその責務を果たさなければならず、災害が発生又は発生する恐れがある場合において、備蓄する物資又は資材の供給に努めなければなりません。
2.消防法
事業者は、従業員や顧客を守るという消防法の目的に沿って防火・防災管理を行わなければなりません。例えば、消防計画の作成、避難訓練の実施、避難誘導の準備、転倒防止措置等を行う必要があります。
3.労働契約法
使用者の安全配慮義務が定められており、災害時においても労働者の生命や健康を確保する対応をとらなければなりません。
4.民法
経営者は、経営について高度な注意義務を負っています。困難な局面においても事業を継続し、適切に利益を上げる必要がありますから、自然災害に備えてリスクを回避又は軽減することが、経営者の責務と言えます。
5.会社法
取締役会がある会社では、少なくとも損失の危険の管理に関する規定や損失管理体制を整備する必要があります。
企業は自然災害発生時にも従業員らの安全を守り、かつ事業継続することが求められていますが、それらを支援する施策は数少ないものですから、あくまで自社で準備・対応せざるを得ません。
ある程度自然災害時の対応指針となる上記のような法令や判例を参考にしつつ、具体的行動計画を定めておくようにしましょう。
BisNavi201608月号掲載
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PCデポに学ぶ
先月のお盆頃に少し話題になった、PCデポの「高額サポート契約&解約料」事件はご存知でしょうか?
コトの発端は、ツイッターユーザーが投稿したツイートで、いわく「80過ぎの独居老人である父が、PCデポに毎月1万5千円の高額サポート契約を結ばされていました。解約に行ったら契約解除料10万円を支払わされました」とのこと。消費税含めて10万8千円のレシート画像も添付されていました。
80歳過ぎの老人が、パソコンの修理に行ったところ、ファミリーワイドプラン(家族所有も含め10台まで初期設定、データ移行サービス、ワイヤレスインターネットサービス、ウィルス対策、インターネット詐欺対策、トラブル復旧サービス、電話サポートをセットにしたパッケージ商品)という月額5500円のサポート契約を結び、さらに光電話やアイパッドのリースなどのオプションが付けられて、月額合計1万5千円の契約になったという経緯のようです。ユーザーが解除料20万が高いとごねると10万になったとのことでした。
この一件、どう思われますか?そういう契約だったから、払わないといけないのではないか、何が問題なんだと少しでも思った方、アウトです。リーガル(法的)センスがありません。 引っかかる点はいくつもあります。例えば①1人暮らしの高齢男性に果たして「ファミリーワイドプラン」が必要だったのか、②契約が妥当なものなのか③契約解除料が減額されたのはなぜか④解除料20万は適正なのか⑤解除料に消費税かかるのか、など。
この問題が発覚する前の8月10日は1498円だったPCデポの株価が、この記事を執筆している8月24日時点では809円になっています。時代は、消費者保護の方向に向かっており、高齢者への販売に対する社会の目はますます厳しくなることでしょう。今どき消費者契約法の知識もなしにサービスや商品を販売するのはリスクです。自社の販売方法に問題はないか、一度立ち止まって見直すことをお勧めします。
BisNavi201609月号掲載
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何が個人情報?
「個人情報なので教えられません。」
「この電話番号はどこで知ったんだ?個人情報の流出だ!」
どこかで言われたことありませんか?個人情報保護法が施行されてから、世間ではやたら個人情報に厳しくなった印象があります。いや、それは違う(誤解や過剰反応)だろ、と思うことも少なくありません。
皆さん簡単に個人情報と言いますが、個人情報って何ですか?と問うて、きちんと答えられる人はどれくらいいるのでしょうか?今は個人がSNS等ですぐに情報発信できる時代ですので、経営者たるもの、何が個人情報にあたり、どんな取り扱いをしなければならないか程度の基礎知識は持っておくべきものと思います。
まずは、何が個人情報にあたるか抑えておきましょう。法律では、「個人情報」は、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)と定められています。
すなわち、個人(外国人も含む)の氏名、年齢、性別、住所、電話番号、家族関係、映像、音声、職業、健康状態、諸活動などやその個人に対する判断・評価、その人が創作した表現・ノウハウなどの情報が個人情報にあたります。ただし、あくまで「特定の個人を識別できるもの」に限定されています。
また、個人情報保護法の対象となるのは、国や自治体のほか5000人を超える個人情報を管理する事業者です。ですから、これに当てはまらない企業は法の規制から外れていますが、世間一般の人はそんなこと関係なく、何かあったときには個人情報のセキュリティに甘い企業だとしか認識されません。
個人情報漏えいをしてしまうと、社会的信用を失うのはもちろんのこと、損害賠償といった金銭的損失も被ります。いま一度、管理体制を確認しておきましょう。
BisNavi201610月号掲載
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退社した社員が同業を営む
「元社員(元部長)が、退社した後に自分で会社を設立して、当社と同じ(または類似の)商品を取引先に、積極的に営業して販売している。辞めるときに誓約書などは取っていないけど、何かできない?」
という内容の相談がありました。会社側からすると、そんなことがあるとあまり気持ちの良いものではないでしょうし、取引先を奪われた結果、売上や利益が減ってしまってはたまらないという本音も当然あるでしょう。ただ、元社員は、辞めてからまで会社に縛られるいわれはない、自由競争だろ!と思っているかもしれません。
結論から言うと、日本人には職業選択の自由がありますので、基本的に辞めた元社員が同じ商売をすることを、全面的に禁止することはできません。ですが、次のようなポイントを抑えた就業規則や誓約書・念書、競業避止契約があれば、元社員の競業について、ある程度制限することが可能となります。
①守るべき企業の利益
②従業員の地位
③地域的な限定
④競業避止義務の存続期間
⑤競業行為の範囲
⑥代償措置の有無
ただし、上記①~⑥は、書いている内容が無制限に認められるというわけではなく、合理的な範囲を超えて元社員を不当に拘束するような内容は無効になる可能性がありますから、注意が必要です。
この手の争いは昔から幾度となく繰り返されてきましたので、ある程度裁判例は積み上がっています。それなりに社内の地位が高い(機密性のある情報に触れ得る立場の)社員や会社役員が辞める場合は、必ず手当てをしておきましょう。辞めてからでは遅いので。 なお、冒頭の相談で、元社員が、辞める前から取引先を奪う準備をしていたり、厳重に管理されている顧客情報や技術情報を利用した時は、損害賠償請求できる余地があります。
BisNavi201611月号掲載
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契約の管理
企業が行う企業間の取引や消費者との取引は、基本的に契約に基づいて行われます。1回限りで取引が終わるものはともかく、継続的な取引となると、契約書を作成していることが多いでしょう。
しかし、契約を結んで契約書を取り交わすところまではしっかりやっていても、その後何の管理もされていない場面を目のあたりにすることが多くあります。
例えば、経営者や従業員が契約の内容を理解していない、必要な時に契約書が出てこない、誰でも見られる場所に契約書が置かれている、契約の更新や更新拒絶の通知期間を過ぎている、担当者が誰か分からない、契約内容に基づいた業務がなされていない、古い契約書と新しい契約書がごちゃまぜになっているなど、もしかすると心当たりのある方がいらっしゃるかもしれません。
経営者は営業に意識が傾き軽視しがちですが、契約の管理は、企業のトラブル予防やコンプライアンスの観点から経営上重要な業務と言えます。
ところで、一口に経営の管理と言っても、実際は、次の2つに大別されます。
①「契約書」原本の管理
②契約「内容」の管理
どちらも重要ですが、②について、契約で決めたことと実際の業務がリンクしていないことが往々にしてありますので、一度チェックしてみてはいかがでしょうか。やらなくてもいいことをサービスで提供していたり、やらないといけないことを行っていないことがきっと出てくるでしょう。意外と、従業員は普段疑問に思っていて、意見がどんどん出て業務の効率化が図れたり、組織間の横のつながりが太くなり風通しが良くなったという実例もあります。
契約を放置していてもトラブルに発展する確率は僅かかもしれませんが、管理を怠り、いざトラブルが発生すると、時間を奪い、精神を削り、お金もかかる厄介な代物です。
契約管理に関するご相談はいつでもどうぞ。
BisNavi201612月号掲載
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ピコハラ?
インパクトある独特の歌詞とダンスで、世界的に大ヒットしたピコ太郎さんの「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」は、皆さんどこかで一度は耳にされたことでしょう。
この楽曲は非常に短いし、振り付けもそこまで難しくないので、会社の飲み会や忘年会の余興や一発芸で多用されているやに聞き及びます。
する方も見る方も楽しんでいるのならいいのですが、一部では、上司に無理やりやらされたとか勤務時間外で練習させられたなどの声が上がっていて、飲み会の余興でピコ太郎さんの「PPAP」を強要するのはピコハラ、もといパワハラに当たるのではないか、と囁かれているとかいないとか。実際問題、どうなんでしょう?
厚生労働省は、パワハラを「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義しています。さらに、パワハラにあたる具体的な行為を以下の6つの類型に分けています。
①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
②精神的な攻撃(侮辱、名誉棄損、暴言等)
③人間関係からの切り離し(仲間外し、無視、送別会への出席拒否等)
④過大な要求(遂行不可能なことや業務上明らかに不要なことの強制等)
⑤過小な要求(能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない等)
⑥個の侵害(私的なことに立ち入ること等)
パワハラに該当するかは、あくまでケースバイケースですが、ピコハラの場合、その飲み会の費用を会社が負担せず、上司がある一定の者だけを対象として余興を行わせ、その者が苦痛に感じているのであれば、職場内の優位性を背景に業務の適正な範囲を超えて精神的な苦痛を与えたものと言えそうです。下手すると、会社も不法行為に基づく損害賠償請求されるやもしれません。
飲み会の余興にも気を遣わないといけないのは何とも残念ですが、これも時代ですので、頭の片隅には置いておきましょう。
BisNavi201701月号掲載
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誇大広告になってない?
平成29年1月24日、最高裁判所において事業者・消費者の双方にとって重要な判断が示されました。
裁判で問題になったのは、高血圧や糖尿病の予防に効果があるとうたった健康食品「クロレラ」の新聞折り込みチラシで、このチラシは消費者に誤解を与える不当な勧誘だとして、京都市の健康食品会社に対して広告の差し止めを求めて消費者団体が提訴したのです。
第1審の京都地裁では、「医薬品と誤認されるおそれがある」として広告の差し止めを認めましたが、第2審の大阪高裁では、「不特定多数に向けたものは勧誘にあたらない」として京都地裁の判決を取り消しました。ところが、最高裁で「新聞広告により不特定多数に向けて働きかけを行うと個々の消費者の意思形成に影響を与えることもあり得るから、一律に勧誘でないということはできない」とする判断を下したのです。
分かりにくいですが、この裁判では、広告は勧誘か?という点がポイントです。消費者契約法第4条で、「事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、消費者に対して重要事項について事実と異なることを告げたり、物品・権利・役務などの将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供したことによって、消費者が誤認して契約をしたときは、契約を取り消すことができる。」と定められているからです。
つまり、不特定多数に向けたパンフレットや広告などは勧誘に含まれない=契約取消ができないとなり、逆に、勧誘に含まれる=契約取消ができるとなるため、事業者にとっても消費者にとっても影響が出てくるのです。
今回、最高裁は、不特定多数向けの広告でも勧誘にあたる場合がある=あたる場合は契約を取り消せる、と判断しましたから、今後は、自社のパンフレットや広告(チラシはもちろんインターネット上のものも含む)の記載内容について、よくよく検討が必要です。
突然消費者から契約を取り消され、返金を求められて、慌てることのないようにしておきましょう。
BisNavi201702月号掲載
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専門家の使い方は
いつも法律に関する話なので、今回はちょっとテイストを変えてみます。
最近、経営者が2名相談に来られました。
両社とも取引先とのトラブルを抱えており、訴訟を検討しているが、証拠と呼べるものがほとんどないという事案でした。
お一人はインターネットで情報を集めていたらしく、法的観点から見た私の説明や助言をいちいち遮り、それは違う、こう書いていたからこうすることもできる・考えられるのではないか、と言ってきます。しかし、情報はカンタンに集められるようになっているけれど、集めた情報が不確かなものであったり、古いものであったり、自分に都合のいい情報だけ信じてしまったりすることが往々にしてあります。まさにこのパターンでした。
もうお一人は、私の説明や助言を静かに聞き、上手くトラブルを解決するために知恵を貸してほしいと言います。
どちらの方に力添えしたいと思いますか?
正直言って、専門家も人間です。最初の相談者の場合、相談に対する回答について、最低限の情報だけ伝えればいいかと頭をよぎりますし、聞く耳を持たない人のために頑張りたいとは思いません。せっかく相談に来られたのですから、私から上手にたくさんの情報を引き出せばいいのに、実にもったいなぁと思います。後の相談者の場合、相談が終わった後に頼まれてもいないのに判例等を調べ、何とか解決の糸口を見つけることができました。当方は、確実に赤字です。でも、そんなこと気になりません。
これは相談段階の話ですが、依頼段階でも専門家の使い方が下手くそな経営者はたくさんいます。費用を安く、スピードも速く、だけど品質は高く、を求めますが、そんなサービスはごくごくわずかでしょう。
御社のために報酬以上の情報をもたらしてくれたり、他社と繋げてもらったり、一生懸命仕事をしてもらうには、どうしたらいいか一度考えてみることをお勧めします。専門家の見極めも大事ですけど…
BisNavi201703月号掲載
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論より証拠
●A社の言い分
「当社は、B社・C社・D社・E社に対し、平成29年2月1日に、当社の商品をそれぞれ20万円で売り引き渡したのだが、今日まで誰も代金を支払わないので請求する。」
●B社の言い分
「当社は、A社から商品を買ったわけではない。A社に対し、取引先を紹介したことの謝礼としてもらったものだ。」
●C社の言い分
「当社は、売買代金をすでにA社の社員に直接手渡した。」
●D社の言い分
「当社は、A社から商品を買ったが、支払は商品引渡し時点から3か月以内でよいとのことだった。」
●E社の言い分
「そもそも商品の引渡しを受けていないから支払わない。」
事例を分かりやすく簡略化して書いてみましたが、読んでみて、皆さんは誰の言い分が正しいか判断ができるでしょうか?
神ならぬ私たち第三者では、果たして真実はどうなのか判断ができません。これは、裁判官でも全く同じなのです。当事者の方々は真実を知っているし、自分が正しいと思っているので軽々しく「裁判する」などと言い出しますが、タイムマシンでもない限り過去に起こった事実は証拠なしで判断することはできないのです。
仮に、この事例が裁判になった場合、例えば次のような証明が必要となります。
・A社はB社と売買契約をしたこと(財産権移転の約束+代金支払の約束)の証明
・C社はA社社員への代金支払の証明
・D社はA社と支払期限を3か月以内と合意
したことの証明
証明できなければ、その言い分はないものとして裁判では取り扱われます。まさに、論より証拠。この程度は経営者の教養として身につけておきましょう。もしものときに泣かないでいいように。
BisNavi201704月号掲載
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民事裁判のよくある誤解
前回は、当事者でない第三者が判断する裁判でモノを言うのは、何より証拠ですよ、ということをお伝えしました。今回は、民事裁判で皆さん誤解しているなぁと思う点について書いてみます。
1.真実が明らかになる
そんなことはありません。あくまで、当事者が主張した事実が証拠に基づいて妥当であるか判断するに過ぎません。真実はお金を貸したのに、それを証明するものがなければ、貸してなかったものと判断されます。
2.証拠探し
証拠は裁判所などが見つけてくれるとか筆跡鑑定してくれるなどと勘違いされている方がいらっしゃいますが、そんなことはありません。あくまで、その事実があったと主張する当事者が提出しないといけません。
3.訴訟費用の負担
判決や和解では、「訴訟費用は、被告の負担とする」などの訴訟費用の負担に関する記載がされています。ただ、ここでいう訴訟費用とは、例えば裁判所に納めた収入印紙代や郵便切手代、証人の日当、裁判期日の出頭旅費などのことであって、専門家報酬は含まないのです。ですから、訴訟に勝ったとしても自分が依頼した弁護士報酬などを相手方に請求できるわけではありません。
4.判決を得れば相手方から金銭を得られる
金銭の支払を請求する訴訟で勝訴したからといって、裁判所が相手方から金銭をむしり取って勝訴者の預金口座に振り込んでくれるといううまい話はありません。相手方が任意に支払わなければ、相手方の持つ財産(預金口座・給与・家財道具・自動車・不動産など)を具体的に指定して差し押さえ・換金する手続を行う必要があります。相手方がどんな財産を持っているか分からないと困難ですし、差し押さえたとしても二束三文にしかならず、費用の方が高いこともざらにあります。
以上のように、裁判は、頭の中のイメージと現実が乖離していることが少なくありませんので、訴えたい・訴えられたときは必ず専門家に相談するようにしましょう。
BisNavi201705月号掲載
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民法改正、重要ポイントはここだ!
2年前から法案は提出されていたのに国会期限内に可決されず審議継続となっていた「民法の一部を改正する法律案」が、平成29年5月26日、ついに可決され、6月2日に公布されました。新しい法律は、3年以内に施行されます。
民法とは、家庭や社会生活のルールを定めた法律で、明治29年に制定されました。当時の状況が現在とは大きく異なることは、言わずもがなです。そこで、今回、特に企業や個人が行う経済活動に関する債権法(「誰かが誰かに対して何かを要求できる権利」についてのルール、例えば「売買」)の分野を現在の状況に合うよう、改正したのです。
改正点は200項目以上に及び、まさに大改正と呼べますが、企業にとって影響が大きいと思われる8項目に絞って、今回と次回の2回に渡ってご案内します。
1.意思能力のない者がした契約は無効
認知症の高齢者や重度の知的障害者、泥酔者など、判断能力のない者と契約しても無効となります。当然の原則を明文化したに過ぎませんが、意思確認はより重要になります。
2.短期消滅時効の廃止
飲食店のツケは1年、学習塾の塾代は2年、医師の診療報酬は3年などバラバラだった時効期間が、5年又は10年に統一されました。
3.融資に関する個人保証の原則禁止
事業資金の借入れに際し、個人を保証人とする場合、公正証書で保証契約されていないと無効になります。親族や友人知人にお願いすることは難しくなるでしょう。
4.法定利率の引き下げ
現行の法定利率は5%ですが、これは高すぎて訴訟を引き延ばすほど有利という批判があったため、当面3%とし、また3年ごとに見直すことができるようにしています。
施行は先ですが、新しいルールに振り回されないでいいように、少しずつ情報を入手しておきましょう。
BisNavi201707月号掲載
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民法改正、重要ポイントはここだ!②
2年前から法案は提出されていたのに国会期限内に可決されず審議継続となっていた「民法の一部を改正する法律案」が、平成29年5月26日、ついに可決され、6月2日に公布されました。新しい法律は、3年以内に施行されます。
民法とは、家庭や社会生活のルールを定めた法律で、明治29年に制定されました。当時の状況が現在とは大きく異なるため、特に企業や個人が行う経済活動に関する債権法(「誰かが誰かに対して何かを要求できる権利」についてのルール)の分野を、現在の状況に合うよう改正したのです。
改正点は200項目以上のうち、企業にとって影響が大きいと思われる8項目の残り4項目をご案内します。
5.定型約款ルールの新設
不特定多数の者を相手方として行う定型取引において、定型約款を契約の内容とすることを合意したときや予め定型約款を契約内容とすることを相手(消費者)に表示していたときは、約款の個別の条項についても合意したものとみなされることになりました。
6.契約解除のルールの整備
無催告(督促なし)で解除できる場合が追加整備されたほか、契約の一部の無催告解除についても規定が新設されました。契約解除は、いろんな契約の解消と損害賠償請求に影響を与えますので、大変重要です。
7.瑕疵担保責任のルール変更
売買契約の目的物の種類・品質・数量等に不具合・不良があった場合、買主からは、契約不適合ということで、追完請求・代金減額請求・契約解除・損害賠償請求の4つができるようになります。
8.仕事を完成することができなくなった請負契約の報酬請求の明文化
すでに行った仕事の結果のうち注文者が利益を受けるときは、その一部完成部分の報酬を請求することができます。
施行は先ですが、新しいルールに振り回されないでいいように、少しずつ情報を入手しておきましょう。
BisNavi201708月号掲載
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「不倫」で会社が訴えられる?
今は食傷気味かもしれませんが、昨年から芸能人や政治家など、ある程度知名度のある方の「不倫」がお茶の間を賑わしているのはご存知のとおりです。
好奇心で眺めておられる方も多いと思いますが、実は、会社がこの「不倫」騒動に巻き込まれる可能性がある、ということはあまり知られていません。
そのそもはっきりと「不倫はダメだ」などと定めた法律はありません。が、民法で離婚事由の一つに挙げられており、不倫をすると民事上の不法行為による損害賠償請求の対象となってしまいます。
当事者は、不倫している二人とその被害者一名です(ダブル不倫だと、被害者二名)。
ん?会社は法人だから不倫は行えないし、当事者の中のどこにも会社が出てこないじゃないかと思う方、確かにそのとおりです。
しかし、例えば、不倫が業務中に行われるなど、仕事と密接に関連した場面で行われていた場合、不倫の被害者は、不倫の加害者が勤めている会社に対して、民法715条に定める使用者責任を求めて損害賠償請求を行うことができてしまうのです。
もちろん、訴えられたからといって必ず損害賠償しなければならないかと言えば、そうではなく、①社内(会社の施設)や社用車での移動中にコトに及んだ②原則として当事者が性交渉している③業務中に会社が従業員を適切に監督していなかった、などの要件を満たした場合に、使用者責任を認められることになります。
不倫の被害者からすると会社を訴えるハードルはそれなりに高いわけですが、探偵を雇って証拠をつかむケースも多々あるので、突然巻き込まれて、時間的・精神的・費用的に消耗するのは本当に避けたいところです。
SNSが発達し出会いの場が増えた今日、人間、いつ魔がさすか分かりません。従業員が不倫したときの対応や、業務中に良からぬことをできないような業務体制の整備について、考えておくといいかもしれませんね。
BisNavi201709月号掲載
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絵に描いた餅
企業からよくある質問の一つに、取引先や顧客が売掛金を任意に支払ってくれないのでどうしたらいいか?とか、連絡が取れなくなったが今から何ができるか?とか、裁判所から何かしら通知が届いたけどこれどういう意味なのか?など、売掛金の回収に関するものがあります。
残念ながら、このタイミングで相談してくれてよかったと思うことは少なく、なぜもっと早く対処しなかったのか、できることはそう多くないと感じることもしばしばです。
相手が任意に支払ってくれなかったら、まずは話し合いをすることになりますが、話し合いが成立しない、話し合いが成立しても結局支払わなかった、話し合いをすることすらできない、などの場合、最終的には、訴えを起こすしかありません。そして、「被告は原告に対して●万円を支払え」との勝訴判決を得たうえで相手の財産(預貯金、不動産、自動車や動産など)に強制執行をする、という流れになります。
よく誤解されているのですが、判決を取っても相手が支払わない場合は、企業側から相手の財産を特定(預金なら、金融機関名+支店名)して強制執行する必要があり、裁判所が相手方の財産を調べて差し押さえてくれるなんてことはありません。
もし、相手の財産が特定できなかったら、または特定できたとしても換金価値がなかったら、せっかく費用と時間をかけて得た勝訴判決は、まさに「絵に描いた餅」にしかならないでしょう。 ですから、上記のことを踏まえたうえで、継続的な関係を持つ取引先とは、契約書を交わすのは当然のこととして、契約締結前から良好な取引をしている最中に、水面下でどんな財産を持つのか調査しておく必要があります。なかなかそこまで備える企業は少ないですが、いざというときにモノをいうのは情報です。どんな情報を、どんなタイミングで、どのように収集するのか、検討されたい方はいつでもご相談ください
BisNavi201710月号掲載
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その表現、アウト!
「美容手術の前と後でこんなに変わるんですよ!」ということを消費者や潜在顧客に示すには、いわゆるビフォーアフターの写真を掲載することが一番わかりやすいですよね。ところが、こうした美容医療の広告に問題があるとみられる国民生活センターに対する相談は年間一千件以上に及び、トラブルが多発しています。
医療法で広告規制の対象外だった医療機関のウェブサイトについて規制対象とする改正がなされたことで、どこでOKとNGの線引きをするか、厚生労働省が10月25日開催の有識者検討会で検討したところ、手術前後の写真は、虚偽や誇大でなくとも個人で結果が異なり、選択に大きな影響を与えるため、原則禁止とする方針を決めました。なお、平成30年6月からの禁止を目指しているようです。
これは、医療法の改正に関連した話ではありますが、ここ10年の消費者保護重視の流れからすれば、化粧品などの美容関連商品や健康食品、育毛剤、リフォームなど写真で効果を表現しやすい商品についても、いずれ規制が及ぶ可能性がありますので、動向に注意しておきましょう。もしかすると、ライ〇ップのCMなども見られなくなるのでしょうかね?
上記に限らず、一般消費者を対象とした商品やサービスについて、広告での虚偽・誇大等の不適切な表示は景品表示法で規制されています。この法律に違反すると、措置命令や課徴金納付命令などの対象になりますし、措置命令を受けた企業は公表されてしまいますので、たまには消費者庁のホームページをご覧になって違反事例を勉強することをお勧めします。その表現もあかんのか!と思うところがあるはずです。
そういや景表法違反と言えば、アディーレ法律事務所の業務停止2か月はそれを基にしていました。正直、今頃?と思いましたが、震えて眠る弁護士・司法書士もいるのではないかと。
BisNavi201711月号掲載
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粉飾決算をしたら…
社会的に大きなインパクトを与えた格安旅行会社「てるみくらぶ」ですが、今年3月27日に自己破産を発表し、山田千賀子社長はその時に「自転車操業のつもりはなかった」と釈明していました。
その後、11月6日の債権者集会で破産管財人の調査結果が明らかにされ、3年前の2014年9月期には債務超過(平たく言うと、会社の全財産を換金しても借金を返せない状態)に陥っており、運転資金を調達するために赤字商品の販売を続けた結果、2015年1月以降は月次の粗利益が全てマイナスの状態になったといいます。また、過去7期分の実態(粉飾前のもの)と粉飾による貸借対照表と損益計算書が示され、粉飾決算を繰り返していた事実が明らかになりました。
結果として、3万6046件もの被害者を生み出し、彼らに99億2352万円もの被害を与えました(東京商工リサーチ調べ)。
粉飾決算は、比較的簡単に手を染めがちな犯罪だと個人的には思いますので、もし粉飾決算を行うとどんな責任が生じるのかくらいは、少なくとも知っておくべきでしょう。
役員が負う責任は、大きく民事責任と刑事責任に分かれます。民事責任は、まぁお金の問題、すなわち損害を与えた会社や第三者(取引先や顧客など)に対する損害賠償責任です。刑事責任は、例えば、違法配当罪、虚偽文書行使等の罪により5年以下の懲役・500万円以下の罰金、特別背任罪により10年以下の懲役・1000万円以下の罰金が科されることがあります。粉飾決算に基づく決算書を用いて銀行から融資を受けていた場合は、詐欺罪を構成することも考えられます。前科が付き、人生が一変するかもしれません。
怖いのは、粉飾決算に直接関与していなかった役員で、取締役相互は監視義務・監査役は監視監督義務を負っているため、同時に責任を追及されるおそれがあります。名前だけ役員に入っている方、いませんか?大丈夫ですか?
BisNavi201712月号掲載
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仮想通貨の取引
ITの発展を背景として、インターネット上で自由にやり取りされ、ショッピングの際に支払・資金決済に利用できる通貨のような機能を持つ電子データ、いわゆる仮想通貨は、ビットコインをはじめ700種類以上にのぼり、ここ2・3年で話題に上ることが増えました。ちなみに、日本は、比較的仮想通貨に寛容なため、現在のところビットコイン市場の1日の取引高では世界一を誇ります。
皆さん最近は儲かるからという理由で容易に取引し始めているようですが、昨今、詐欺的な仮想通貨取引の話もちらほら聞こえてきます。過渡期なので仕方のないことですが、法的な投資家保護・消費者保護は不十分ですから、過信や油断は禁物です。
とは言え、今の流れからすると、今後仮想通貨は我々の生活になくてはならないモノになる可能性がありますので、リスクを踏まえたうえで、いち早く取引を始めてみるのもアリです。では、仮想通貨利用には、どのようなリスクがあるのでしょうか?
まず、仮想通貨は日本円や米ドルのように国家が発効しその価値を保証しているものではない、という点です。その価値を信頼する人たちの間でのみ通用するものであり、どの支払にも用いられるとは限りません。次に、仮想通貨の価格は、需給バランスの変化や他の市場の動向、天災地変、戦争、法令の変更などの要因により刻々と変動し、時には暴騰急落があり得る点です。さらに、仮想通貨は電子データですから、様々な電子情報が漏えいすることによるセキュリティリスクも伴います。
なお、仮想通貨の交換は、金融庁・財務局の登録を受けた業者でないと行うことができません。登録業者は、随時金融庁のウェブサイトに公表していますので、取引を始めるにあたって必ず自分の目で確認してください。
落とし穴に気を配りつつ、賢く仮想通貨の取引を行うようにしましょう。
BisNavi201801月号掲載
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はれのひ㈱の登記情報を取得してみた
「はれのひ株式会社」、皆さんご存知ですよね。振袖の販売、着付け、レンタルなどを手がけていた同社は、今年1月8日(成人の日)に突然休業し、多数の新成人が、まさにハレの日に晴れ着が着られなくなるという前代未聞の事件を引き起こしました。
同社HPの会社概要を見ると、2011年会社設立、資本金1千万円、本店所在地は横浜市中区桜木町、従業員49名、売上高は1期目8500万・2期目1億1千万・3期目2億8千万・4期目3億8千万・5期目以降記載なし、事業所は横浜みなとみらい店・福岡天神店・八王子店・つくば店、となっていました。
私は、依頼があれば信用調査の一環として、法人・法人所在地の不動産・代表者住所の各登記事項証明書を取得して、そこから読み取れる情報に知識と経験を加味してコメントを伝えることも行っています。個人的に、どんな登記がなされているか興味があったので、自腹で登記情報を取得してみました。
設立当初は、「シーン・コンサルティング株式会社」という商号で、福岡市博多区博多駅南五丁目の代表者の自宅が本店所在地でしたが、平成24年資本金を150万円に変更し、平成25年に本店を博多駅前二丁目に移転と同時に代表者は横浜に住所を移転、平成26年横浜市中区桜木町に支店を設置、平成27年には「はれのひ」に商号変更し、代表者住所を横浜市西区みなとみらいに移転していました。
もうこの時点で、HPの情報に嘘が含まれている(資本金、本店所在地)ことが明らかになりました。ついでに、代表者住所(いいところにある高層タワーマンション)の不動産の登記情報も取得してみると他人名義でしたので、自宅は賃貸で借りていたようです。どうも同社の代表者は、嘘をついてでも自分を大きく見せようとする傾向があり、嘘を諫めてくれる人が周りにいない、ことが分かります。そりゃ、都合悪くなったら逃げるわ…
調べればすぐに分かることですので、HP上の過剰表現はほどほどに。
BisNavi201802月号掲載
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注意!1人株主1人役員の会社
現在、株式会社を設立するにあたって、出資金(資本金)は1円以上であれば大丈夫ですし、出資者=株主が1人でも構いません。格段に株式会社が設立しやすいため、株主が1人だけの会社が激増しています。
株主が1人であることのメリットは、経営の意思決定を自分だけで迅速に行うことができる点にあります。逆に、デメリットは、その株主に次のような「もしも」が起こった場合、会社経営がストップしてしまう可能性がある点となります。
①1人株主が死亡したけれど、相続人の間で誰が株式を相続するか話し合いがまとまらない場合
②1人株主が認知症や不慮の事故などで意識不明の状態になった場合
1人株主の場合、多くは1人役員となっています。もし上記のようなことがあったら、法的には株主総会を開いて後任の役員を選任することになりますが、相続人の中で争いがある場合などは特に、株主総会を開けないとか強行しても決議の有効性を巡って裁判で争いになるということが往々にしてあります。つまり、株主総会が開けない=役員不在=誰も会社の業務を執行できない=会社経営できない、ことになります。まぁ、これは極端な例かもしれませんが、会社経営の継続を考えた場合、1人株主の会社は、そういったことが起こり得ると想定して危機管理しておくことが大事でしょうし、その対策を行っておくことは経営者の責任でもあります。
1人株主の会社と取引をしている相手方の会社にとってもこのことは重要で、もしかすると将来取引継続できなくなるかもしれない、というリスクを分かった上で付き合っておくと、いざというとき慌てなくてすみます。
人間いつどうなるか、は誰にも分かりません。ですが、対策は現時点でもできます。後は野となれ山となれ、では残された者が大迷惑を被るので、道筋だけはつけておいて頂きたいと思います。
BisNavi201803月号掲載
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通勤中の自転車で事故を起こしたら
皆さんの会社では、従業員の通勤はどのようなルールになっているでしょうか?
公共交通機関や徒歩による通勤の場合は、そんなに心配することはありませんが、自動車・バイク・自転車などで通勤するのを可としていたり、ルール上ダメとなっているのに黙認していると、従業員が通勤中に起こした人身事故(ケガ・後遺障害・死亡)等に関連して、もしかすると会社が損害賠償金を支払う羽目に陥るかもしれません。
いやいや、そりゃ事故起こした本人の責任だろ、と思われるのもごもっともです。しかし、事故の被害者側(と、その弁護士)からすると、加害者が任意保険に加入していない従業員だったら、「よし、取れるところから取ろう」と考えるのはごく自然なことで、裁判で会社に対し「使用者責任」や「運行供用者責任」などを根拠として、賠償金を負担しろと主張するだろうことは明白です。
とは言え、訴えられたとしても、会社の責任が認められるには使用者(会社)の業務執行中であったことが必要で、現実の会社業務そのものではなく外形から業務執行性があるか、すなわち加害者量の所有権の帰属・業務の内容・業務との関連性や会社の内規や許容の程度などを総合的に考慮して判断されますから、一概に責任を負えとはなりません。ただ、過去の裁判例では、マイカーやバイク通勤が事業の執行とみなされたケースがいくつもありますから、会社としては気を配っておかないといけないことは言うまでもありません。そして、この使用者責任は、自転車でも同様のことが言えます。
ここ数年、歩行者と自転車の事故で多額の損害賠償が認められたという報道が目に付くようになりました。従業員がきちんと任意保険に加入していて賠償金を賄えるなら何の問題もないのでしょうが、そうでなければ怖いところです。自転車通勤はノーマークであることが多いですから、読んでドキッとした方は、全従業員の通勤状況や任意保険加入状況を確認しておかれることをお勧めします。
BisNavi201804月号掲載
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セクハラって難しい
4月は、財務事務次官のセクハラ疑惑が世間の耳目を集めました。彼がセクハラを日常的に行っていたのならもちろん許されないことではありますが、いつまでも報道で、あるいはパフォーマンス的に野党国会議員が彼をたたくのは正直やりすぎで、こりゃいじめの構図だよなぁ、と個人的には感じます。
話が逸れました。セクハラは、「相手の意思に反して相手を不快や不安にさせる職場における性的な言動及び他の者を不快にさせる職場外における性的な言動」のことを言います。例えば、性的な話題でからかったり、不必要に体に触ったり、容姿や年齢・結婚について指摘・話題にするなどです。これらの例に限らず、相手が不快に感じ、職場にいるのが苦痛になったり、働くことの意欲が下がったりすれば立派なセクハラとなります。ありがちな男性から女性に対してだけでなく、女性から女性、女性から男性、男性から男性についても成り立ちます。 職業柄、従業員・会社の双方からセクハラの相談を受けることがありますが、正直言って判断が非常に難しいです。事務次官のように音声録音が残っているならともかく客観的なものがあまりないことが多く、またセクハラを訴えていても、よくよく話を聞かないと、実は「疑似恋愛セクハラ(部下の好意があると過失なく誤解した上司が起こすもの)」や「腹いせセクハラ(叱られた・振られた・他の部下への嫉妬などから起こす逆恨みやでっちあげ)」だったりすることもあるからやっかいです。
セクハラは、行為者と被害者の間の認識に大きな差があることが多いため、もし軽い冗談のつもりだったとしても、相手の受け止め方によってはセクハラを指摘されることが往々にしてあります。とは言え、気にしすぎたら会話することもままなりませんから、過剰に委縮せず自然体で過ごし、指摘を受けたときに真摯に対応するしかないのかなと思います。
BisNavi201805月号掲載
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スポーツ中のケガの責任
5月の話題をほぼ独り占めしたと言っても過言ではない「日大アメフト部悪質タックル事件」。タックル映像の強烈さ、加害選手の潔さ、監督や大学関係者の対応のまずさなど話題に事欠きませんでした。きっと皆さんの中でも様々な意見があることでしょう。
さて、スポーツ中、自分以外の誰か(相手選手が多いと思われます)に対して、故意にケガをさせてしまった場合、加害者はどんな責任を負うことになるのでしょうか?
原則として、法的責任と道義的責任を負うことになるでしょう。法的責任とは、まさしく法律に照らして責任が認められること、道義的責任とは、一般的に人としての常識に照らして正しい道を守る倫理的な責任です。
法的責任には、刑事上の責任と民事上の責任の2つがあります。通常のルールの範囲内で生じたケガであればまだしも、明らかに危険・悪質な行為で故意にスポーツ中に人を傷つけてしまった場合、刑事上の責任としては、暴行罪や傷害罪などが成立し得る可能性があり、民事上の責任としては、不法行為による損害賠償を負うことになります。ケガをさせた人間が責任を取るのは当然ですが、故意に人を傷つけたのが監督やコーチの指示だったとしたら、その監督らも共同不法行為として実際の加害者とともに連帯して損害賠償責任を負うことになります。もし、このスポーツが学校の部活動や企業の社会人チームで行われたならば、学校や企業は使用者責任を問われることになるかもしれません。
スポーツの話をしてきましたが、これを企業活動に置き換えると、上司や会社の指示で違法な行為を行い他者に経済的・肉体的な損害を与えた場合は、違法行為を行った者はもちろん指示をした上司や被用者を指揮監督する企業も同様に損害賠償責任を負うことになります。平然と経営者がそんな指示を出すこともありますが、発覚したとき何も良いことはありませんので、やめときましょう。指示してないと言い張っても見苦しいだけかもしれませんよ…。某大学の某監督のように。
BisNavi201806月号掲載
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突然の株主死亡は、会社存続の危機?
会社は、誰のものですか?
社長のもの、社会のもの、地域のもの、社員全員のもの、オレのものなど色々な答えがあることでしょう。しかし、会社法という法律の観点からすると、実質的な所有者は「株主=出資者」のものと言えます。
ここで少し考えて頂きたいのは、もし株主が死亡して相続が発生したらどうなるのか?ということです。事例を見てみましょう。
【事例】『L株式会社には、株主が3名おり、Aさん100株・Bさん200株・Cさん300株を保有している。今般Cさんが亡くなり、相続人はCさんの子供2人であった。』
よくある誤解ですが、この場合、Cさんの株は、相続人に150株ずつ相続されるわけではありません。遺言があるか遺産分割協議が調わない限り、2人で全部の株を共有するかたちが続くことになります。
さて、会社側から見た場合、Cさんが死亡したときに考えられるリスクとしては、何があるのでしょうか?大きくは次の3点です。
①事例の場合、Cさんの株の相続人を決めるか又は権利執行者を指定しない限り、株主総会で重要事項の決定が一切できず、会社の運営がストップしてしまいます。
②Cさんの相続人が良からぬ人物(反社会的勢力に属する者)である可能性があります。
③Cさんの相続人が、会社の知らない第三者に株を売って株式譲渡承認請求をしてくる可能性があります。怖いのは、請求されたら、拒否するにしても会社が買い取るか又は指定買取人が買い取らねばならない点で、突然のキャッシュアウトを強いられかねません。
その他、株主代表訴訟やクーデターも起こり得ます。以上のように、株主の相続は会社にとって重要な問題であり、早めの対策に勝るものはありません。いざとなって慌てないよう、専門家を交えてまず現状の把握から始めましょう。
BisNavi201807月号掲載
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予約のドタキャンによる損害
7月11日の日経新聞では、予約を入れながら当日来店せず、連絡もない無断キャンセルへの対応で、飲食業界は独自に対応ルール作りに動き出した、と報じていました。
無断キャンセルは、売上の減少、人件費の無駄、食材のロス、従業員の士気低下、店内の盛況感の低下など飲食店では頭の痛い問題だと思いますし、どう対応していいものか悩んでおられる方も多いことでしょう。
法的には、予約者による指定日時での飲食物提供の申込みと飲食店側によるその承諾がなされたことで、契約が立派に成立しています。そして、契約で定めてない以上、当事者から一方的に解約(キャンセル)することはできません。したがって、無断キャンセルされた場合、被害を回復したいなら予約者に対し、原則として債務不履行による損害賠償請求を行うことになります。実際には、予約成立の有無や損害額の算定、相手方の特定など一筋縄でいかない点もありますが、今年3月、40人の宴会予約を無断キャンセルした人に対して店主が怒りの損害賠償請求訴訟を提起し、勝訴した実例もあるようですから、腹に据えかねるなら泣き寝入りしなくても良いということだけ覚えていれば良いと思います。
ま、一番いいのは無断キャンセル防止の方策(ホテル宿泊キャンセルのように事前にキャンセル料の了解を取り付けておく、3日前に確認電話がつながらない時点でキャンセルとみなす、など)を厭わずにやることで、これだけでも相当数は防げるでしょう。
ところで、予約の無断キャンセルは、飲食店に限った話ではありません。一つ一つのキャンセルによる損害はごくわずかなものかもしれませんが、塵も積もれば山となります。自社が損害を被るようなキャンセルをいかに賢く防ぐか経営者の腕の見せどころですので、一度知恵を絞ってみてはいかがでしょうか?
BisNavi201808月号掲載
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執行役員とは何ぞや?
会社には様々な役職名があります。最近だと、「執行役」とか「執行役員」、「常務執行役」などの役職名が書かれた名刺をいただくことが増えてきましたが、何となく分かるような、でもいったい何者?役員?社内の序列はいったいどんな順になっているの?と口に出して言えないけど心の中で思っている人もおられるとか。役職名で人を混乱に陥れている「執行」役ですが、法的にはどうなっているのでしょうか?
そもそも役職には、①会社法で定められた役職②単なる敬称・俗称として用いられる役職の2種類があります。会社法で定められた役職として、取締役、代表取締役、監査役、会計参与などがあり必ず登記がされますが、執行役は①に含まれず登記もされません。したがって、単なる敬称や俗称の類ということになります。会長、社長、工場長、本部長なども同じです。
法律上、取締役は会社の重要事項や経営方針を決定する権限を持っていますが、執行役員は法律で定められた位置づけがありませんので、一般的には決定した重要事項を実行する役割を担う人であって、法律上は従業員と一緒ということになります。ただし、法人税法上の役員の範囲は、実質的に経営に従事していると認められる人(主要な取引先との案件の決定権や採用人事権を持っている状態)や同族会社の従業員のうち一定の要件をすべて満たすと人と定義されておりますから、要件に当てはまるなら税法上役員とみなされる可能性はありそうです。
執行「役員」の役職(肩書)は、「対外的に信用を得るにはどう表現したらいいか」「どんな肩書だとかっこいいか」「ポストをどう与えるか」という会社の苦心の結果であり、別に法律上の役員ではない、ということさえ知っておけば良いでしょう。
BisNavi201809月号掲載
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あなたは大丈夫?これもパワハラ
知らず知らずのうちにやってしまっているかもしれない「パワハラ」。これくらい大丈夫だろう、指導の範囲内だ、叱咤激励だ、なんて思っていても、いきなり訴訟地獄に突き落とされることだってあります。相手も馬鹿じゃないので、あなたが気持ちよく権力?を振りかざしている間、「しめしめ」と思われつつレコーダーで録音されているかもしれませんよ…。実際に、先月ある依頼者からパワハラ音声を聞かされましたから。
職場でのパワハラは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」のことを言います。
例えば、こんな言動もパワハラにあたります。心当たりありませんか?
・部下がミスをしたときに、「早くしろよ」
「こんな簡単なこともできないのか」「給料泥棒」などと責める
・休日中に、「今から出てこい」と指示し、休日出勤を強いる
・終業後に「飲みに行くぞ」と、本人の意向確認をせずに食事や飲み会に同行させる
・人員不足や体調不良を理由とする休暇を認めなかったり、休む理由をしつこく聞く
・気に入らないことがあると、椅子を蹴ったり、ファイルを机にたたきつけたり、舌打ちをしたりして態度に表す
・仕事をさせず、反省文や謝罪文を書かせる
・宴会の余興をやらせる
どうです?意外と、そんなこともパワハラなのと思うようなこともあるのではないでしょうか。
こじれると、裁判による損害賠償請求が待っていますので、経営者の皆さんご自身は大丈夫と思いますが、役職ある従業員の言動には気を付けてくださいね。
BisNavi201810月号掲載
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退職代行会社から連絡が…
最近よく目にする退職代行会社。細かいサービス内容は会社によって違うかもしれませんが、概ね、退職の連絡、離職票や私物の発送に関する連絡、退職者本人への直接連絡の拒否、社会保険の手続確認などを行うようです。メディアに取り上げられてから、あっという間に会社が増え、東京などの大都会では珍しくなくなってきているのだとか…。
私自身、過去に3回正社員の退職を経験していますから、退職のことを言い出しにくいな~、切り出すタイミングはいつにしようかな~と悩むのはよくわかりますが、古い考えなのか、退職の意思表示くらい直接自分でしろよ・礼儀だろと思わなくもないです。ですが、これも時代の流れなのでしょう。「今」にすごくマッチしたサービスなのは否めません。福岡でもいずれ退職代行会社からの連絡事例が多々出てくると思われます。
では、退職代行会社から連絡があったら、会社側はどのように対応したらよいのでしょうか。
まず、電話口の退職代行会社が本当に本人から依頼を受けたのかについて、委任状や契約書などの書面提示をしてもらい契約関係の確認をすることが必要です。話はそれからです。もし契約関係の確認をしないまま漫然と退職を進めてしまうと、場合によっては会社側の過失を問われる可能性があります。
次に、退職代行会社から退職日交渉や残業代・退職金の支払請求、有休の買取請求などの交渉がある場合は、弁護士資格か司法書士資格を持っているかの確認が必要です。弁護士や司法書士(ただし、140万円以下)以外の者が、本人から報酬を得て法律事件を取り扱うことは禁止されているからです。資格を持っていなかったら、その交渉は拒否して構いません。
退職代行会社を使ってでも退職したいという人が出てくることを前提として、即日退社に伴うリスクを前もって検証し、予め対応を練っておいた方が良いと思いますが、いかがでしょうか。
BisNavi201811月号掲載
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契約書は何のため?
最近、契約書や合意書の類に関する問い合わせが多く寄せられています。例えば、契約や合意の前段階でのお問い合わせの場合、契約書を作って欲しい、先方から送られてきた又は自社で作成した契約書をチェックして欲しい、有利な内容にするにはどうしたらいいか知恵を貸して欲しい、このことを行うのに何か書面を残しておいたほうがいいのか意見が欲しい、などです。
上記のとおり、契約書の作成を要望されることもありますが、私は基本的に、インターネットで検索した契約書ひな型を使用したり、社内にある別の契約書を参考にしつつ、まずは自社で作成してみることをお勧めしています。ひな型を参考にすること自体はぜんぜん悪いわけではなく、むしろ時間短縮・内容の遺漏防止のため有効に活用すべきです。ただし、ひな型は、より多くの利用者に多くのシチュエーションで参考となる見本として価値があるものですから、一般的・抽象的・契約当事者で対等な内容が定められていることが多いことだけは注意しておきましょう。契約は、その事情や背景、置かれた立場が異なりますので、ひな型のまま内容の検討すらせずに利用することには、リスクが潜みます。
ところで、契約書・合意書・念書・同意書などの類の文書はなぜ作成するのでしょう?
一度その理由を経営者がしっかり考えておくと、その取引先や顧客との間で作成するべきなのか、作成するとしてその程度はどうするのか、何に注意しておけばよいか、その取引でどの程度リスクを取るのかなどは自ずと明らかになってくるでしょう。
職業柄、取引先や顧客とトラブルになった後に契約書等の文書を拝見しますが、残念なものであることが多々あります。後から発生するかもしれない不利益を予測し、備えておくことも経営者の役割と思いますが、いかがでしょうか。
BisNavi201812月号掲載
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証拠が全て
あけましておめでとうございます。本年も経営者皆様の役に立つコラムを執筆したいと思いますので、よろしくお願いします。
さて、だいたい年末は、トラブル系の相談が増えるのですが、ご多分に漏れず平成30年12月も「顧客が・取引先が・貸付先が、お金を支払ってくれない」といった相談をいくつかお受けしました。
当事者の方々は真実を知っているし、自分が正しいと思っているので、軽々しく「裁判する」などと言い出しますが、私がこうした相談を受けたら、裁判で勝てるか、回収可能性があるかについて必ず話をします。
裁判になった場合、裁判官は両当事者の言い分を、その言い分に裏付け、すなわち証拠があるのかに基づいて判断をしますから、とにかく証拠がとても大事になります。
次の事例を見てみましょう。皆さんは誰の言い分が正しいか分かりますか?
●A社の言い分
「当社は、B社・C社・D社・E社に対し、平成30年2月1日に、当社の商品をそれぞれ30万円で売り引き渡したのだが、今日まで誰も代金を支払わないので請求する。」
●B社の言い分
「当社は、A社から商品を買ったわけではない。A社に顧客を紹介したことの謝礼としてもらったものだ。」
●C社の言い分
「売買代金は、A社の社員に直接手渡した。」
●D社の言い分
「確かにA社から商品を買ったが、支払は3か月以内でよいとのことだった。」
●E社の言い分
「商品に不具合があったので支払わない。」
どうでしょう?当事者以外の第三者は、話だけでは真実を判断できません。これは、裁判官でも全く同じで、証拠なしで判断することはできませんから、証明できなければ、その言い分はないものとして裁判では取り扱われます。まさに、「論より証拠」。この程度は当たり前の知識として身につけておきましょう。もしものときに泣かないでいいように。
BisNavi201901月号掲載
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証拠・証拠と言うけれど
前号では「証拠が全て」というコラムを書かせていただきましたが、証拠・証拠っておたくは言うけど、だいたい何が証拠になるのや?という質問がありましたので、今回は証拠について取り上げてみます。
証拠は、大きく①物証(文書や検証物など)と②人証(証人、鑑定人や当事者本人など)があり、証拠調べによって得られた文書の内容、検証の結果、証言、鑑定意見や当事者の供述などを証拠資料といいます。
そして、ここからが重要なのですが、証拠の機能によって次の2つに分けられます。
1.直接証拠
主要事実を直接的に証明する証拠
2.間接証拠
主要事実を推認させる事実を証明する証拠
これだけだと何のことだかよく分からないので「貸金」を例に考えてみます。貸金が成立するためには、①貸金の返還を合意したこと②金銭を交付したこと、の2つの事実を証明する必要があります。これを証明する直接証拠は、借用書や契約に立ち会った第三者の証言などで、間接証拠としては借主が生活に困窮していたにもかかわらず金銭を借りた頃に金回りが良くなり車を購入した、という近隣住民の証言、金銭を借りた日に貸主がその金銭を預金口座から引き出していることの分かる通帳や契約前に受け取った借主の決算書類などが考えられます。
ざっくりとしたイメージは持っていただけたでしょうか。何が証拠になるかはその事案によって異なりますが、少なくとも直接証拠があれば、それが証明力としては一番強いです。口約束で文書が残っていない時は、間接証拠を積み上げて戦うしかありません。トラブル発生の場合に一番身を守れるのは契約書だとよく分かっているので、司法書士や弁護士は契約書を作りましょうと勧めるのです。
BisNavi201902月号掲載
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バイトテロの脅威
くら寿司・ビックエコー・セブンイレブン・ファミリーマート・バーミヤン・すき家・大戸屋、これら名だたる企業に共通するキーワードは…もちろんお分かりですよね。昨年末から今年にかけて、アルバイトが引き起こした「バイトテロ」に遭った企業です。バイトテロと呼ばれるSNSにおける不適切な発言や写真・動画の投稿は、平成20年あたりから出始めていましたが、最近は一気に開花したような様相を呈しました。改めて、SNSは恐ろしいと認識した方も多いのではないでしょうか。
引き起こした彼らに悪意があったわけではなく、悪ふざけしていただけで結果的にバイトテロとなったとは思いますが、事業者側としてはたまったものではありません。
バイトテロにあたる行為をした従業員に対しては、刑事上は信用棄損罪・業務妨害罪・器物損壊罪などに問える可能性があり、民事上は不法行為に基づく損害賠償請求ができます。
とは言え、あくまで事後的なものですから地に落ちた消費者からの信用は簡単に回復できませんし、例え従業員に損害賠償を支払えという判決が出たところで、実際に金銭を支払ってもらえなければ、全く意味がないことになります。
したがって、こうした問題を起こさないために一番良いのは、アルバイトを雇わないことになります。次に、ルールの策定や従業員教育の徹底、現場責任者のルール運用の徹底などが考えられます。 いい大人である私たちは、バイトテロにあたる行為をしてSNSにアップすればどんなことになるか分かりますので、そんな馬鹿なことは(きっと)しないと思いますが、想像を超える馬鹿者は必ず一定数います。従業員を雇用する時は、そのことを前提として対応する必要があるでしょう。御社では、何か対策を取られておられますか?
BisNavi201903月号掲載
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契約書の元号表記は変更が必要か?
1 元号は、政令で定める。
2 元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。
この、たった2文の法律が、今話題沸騰の元号について書かれた「元号法」です。ご存知でしたでしょうか?天皇陛下のご退位は4月30日ですから、いよいよ改元が間近に迫ってきました。この記事をご覧になるときには、すでに新元号が決まっています。
さて、今年5月1日以降は新元号になるわけですが、これに関連して、気の早い法人顧客担当者から良い質問がありました。
「例えば、有効期限を「平成33年」などと記載している契約書は、改元後その部分を修正する必要はあるのか?」
結論から申し上げますと、契約書修正は全く必要ありません。確かに平成33年が存在しないのは明らかですし、改元時の取扱いについて何かしらの法令(ルール)があるわけではないのですが、新元号3年であることは公知の事実ですし、そのように読み替えられますから、契約が無効になることはなくそのままでも有効です。
では、今後、契約書面の日付部分について西暦で表記する必要があるかと言えば、グローバル化した世の中なので無用の争いを避けたいのであれば西暦がベターでしょうし、平成33年(2021年)などと併記しても大丈夫です。ご自由にどうぞ。ちなみに、私自身は和暦の方が好きですので、今後は併記する形を採用しようかなと考えています。
それにしても「西暦で統一を」という意見の方もいらっしゃるようですが、日本で代々受け継がれてきた日本の文化・歴史でもある元号をあえてなくしてしまう必要はないと思います。新元号、何かが一新するような、そんな妙な高揚感を覚えませんか?
BisNavi201904月号掲載
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皇位継承に事業承継を思う
皇太子殿下が御即位され、ついに令和の時代がスタートしましたね。王家の現存する国はイギリスをはじめ世界に27か国あるそうですが、この中で最も歴史が長いのが日本の天皇家になります。宮内庁のホームページによると令和天皇は126代目にあたり、今は神武天皇の即位(紀元前660年)から数えて何と2679年に及びます。神武天皇は神話の中の人物であり実在の信ぴょう性が低いという説がありますので、実在が確実視される第26代継体天皇(6世紀前半)で計算したとしても、6世紀以降に王朝交代の証拠がない日本において皇位は少なくとも1500年に渡って継承されてきたことになります。それでも、王家の存続歴史第2位のデンマーク王室と比べて200年は長いのです。
また、日本の会社や事業の中にも、世界に誇れる歴史を持つところが少なくありません。1000年以上の老舗もいくつかあるようです。❶金剛組(578年~大阪)聖徳太子から四天王寺を建てる仕事を与えられたのが始まり❷池坊華道会(587年~京都)言わずと知れた華道のお家❸慶雲館(705年~山梨)世界最古の宿としてギネス認定もされている温泉旅館❹古まん(717年~兵庫)❺法師旅館(718年~石川)現在の当主は第46代法師善五郎❻源田紙業(771年~京都)奈良時代創業し平安京遷都とともに移転❼田中伊雅佛具店(885年~京都)創業から一貫して仏具を取り扱う❽一文字屋和輔(1000年~京都)あぶり餅だけを提供し続け、飲食店としては日本最古。
皇位の「継承」は、身分や役割の引継ぎということですから、厳密には事業承継における「承継」と意味は違いますが、次世代への引継ぎという広い概念では同じです。スムーズなバトンタッチには時間がかかります。自社の事業または家業を長く続けたいという方は、ぜひこの機会に計画や行動を始めてみてはいかがでしょうか。
BisNavi201905月号掲載
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「集団左遷」第4話に突っ込む
皆さん、日曜夜10時から放送のTBSドラマ「集団左遷」はご覧になっていますか?第1話から続けて見ていますが、おそらく現役銀行員や元銀行員からすると、「ちーがーうーだーろー」と言いたくなるような軽めの(現実離れしている?)タッチの演出ですから、好き嫌いは分かれそうです。
第4話は、行員の前支店の得意先だった不動産コンサルタントが、その行員を信頼して高級ビジネスホテル建設のために40億円融資を申し込まれて融資したものの、実は売主を名乗る人物は真っ赤な偽物で、地面師詐欺だった、というもの。昨年、積水ハウスが地面師に63億円だまし取られた事件をベースにしているのでしょうか。
この話の途中、名刺交換の場面でいきなり司法書士が登場し驚きました。たぶん不動産売買の1回目の顔合わせだったと思いますが、その段階で立ち会う司法書士は直接売主買主の知り合いで、かつ立ち会って欲しいと依頼されない限りかなりの少数派と思われます。また、融資の絡む不動産売買の場合、通常の司法書士業務だと、最後の代金決済時に登場し、契約内容の履行と本人確認及び登記に必要な書類を確認したうえで、法的に所有権移転が確実だと確信してから金融機関に融資実行して良い旨を宣言し融資を行うことになります。
ですが、集団左遷のドラマでは、そもそも代金決済時に司法書士が見当たらず、しかも融資実行の場面で小切手を手渡していたような…、登記に必要な書類も銀行員が預かっていたような…。演出かもしれませんが、監修ずさんすぎるだろ!と突っ込んでしましました。
まぁ、あまり実務に即しすぎてもそれを悪用される恐れもありますし、ドラマですから楽しんで見ましょう。ただ、不動産売買の際の決済手続きは、実務とか家離れておりましたことをご報告させていただきます。
BisNavi201906月号掲載
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従業員の副業解禁に潜む罠
6月は、「年金以外に夫婦で2000万円の金融資産が必要」とする金融庁審議会の報告書とお笑い芸人らによる闇営業問題の話題で持ちきりの感がありました。
上記のうち、2000万不足問題については、実際に報告書を読むと分かりますが、メディアや野党議員の批判は、取り上げるのも馬鹿らしいほど正鵠を得ていません。経営者の皆様には、ぜひ報告書そのものに目を通していただきたいものです。
それはさておき、もう一つの、あるお笑い芸人Iが所属事務所を通さずに反社会的勢力の主宰するパーティーなどへの芸人参加の依頼を受け、これに参加した芸人らが一定の金銭を受領していたという、「闇営業」問題。芸能事務所を離れて個人でやることで、反社チェックが甘くなり(又は行わず)、ギャラを多くもらえる金銭欲も抑えられません。これは、芸能界特有の話ではなく、経営者にとって他山の石とすべき事案かなと思います。
日本政府は、多様な働き方を可能とする社会を目指して、「働き方改革」を重要政策の一つと位置付け、従業員の副業・兼業の普及促進を図っているのはご承知のとおりです。
今後、政府の思惑のとおり、副業・兼業を行う従業員が増えていくものと思いますが、その場合、会社の管理監督が彼らに行き届かないだろうことは想像に難くありません。
反社会的勢力の人間は、巧妙で不安や弱みに付け込むことが大得意です。もし副業をしている従業員が、彼らとビジネスをしたり、はたまたそれと知らず取り込まれていたりしたら…あくまで副業中の話だから、ということで自社に影響はないと言えるでしょうか?その従業員を雇用している企業名が、報道やSNSで出回ると、企業イメージや評判が下がり業績が悪化する危険性があります(いわゆるレピュテーションリスク)が、このリスクが大きくなることが予想されます。
これは今も同じですが、皆さん何かしらの対策はしておられるのでしょうか?考えたこともないという方、このご時世その感覚では
ヤバいです。
BisNavi201907月号掲載
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吉本興業の落日?
所属芸人らによる「闇営業問題」、芸人の会見後に開いた吉本興業社長の釈明会見で火に油を注ぐ状態となり、いまだ鎮静しません。いまや吉本興業(以下「吉本」と言います)の企業体質等まで大いに叩かれ、官民ファンド「クールジャパン機構」から吉本に対する100億円規模の多額の資金(税金)投入の適正性に疑問の声が上がる事態にまで発展しています。
ビートたけしが、吉本と芸人を「猿回し」と「猿」に例えて、猿が悪さをしたからといって猿に謝れと言ってもダメで、飼っている方(猿回し)が謝るものだ、と言っていたように、初期段階で吉本が前面に出れば良かったのにそうしなかったことで、吉本はやり方が下手だったなぁという印象をお持ちの方も多ことでしょう。きっと社内でいろんなことを想定・検討したでしょうが、結果的に、甘かったと言わざるを得ません。
今回吉本は、その対応のまずさ、一貫性のなさ、芸人に対する吉本のパワハラ体質?などからくる批判、世間一般の常識との乖離(契約書は作らないなど)からくるアレルギー(過敏)反応、判官びいき、各々が勝手に妄想する勧善懲悪ストーリー、視聴率が稼げるスケベ心、同調圧力、巨大企業に対する妬み・嫉みなど、善意・悪意関係なく世の中の様々なポジショントークや感情に襲われました。でもこれは、吉本の「評判」を形作っている正体ともいうべきものです。
今回の件は、吉本のみならず全事業者が、改めて反社会的勢力に関わることの恐ろしさやSNS時代に情報を隠すことは容易でないこと、まずい対応をした場合の評判リスクがあることなどを認識する良い機会になったことと思います。
それにしても、池乃めだか師匠がテレビの直接取材を受けて「吉本に対して言いたいことは?」に対し「背が高くなる薬を開発してくれ」と答えたのは、見事としか言いようがない!まだまだ吉本は健在でしょう。
BisNavi201908月号掲載
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ニュースをリスク対策に活かす
ここ2~3か月は、ワイドショーの話題にこと欠かない事件が立て続けに起こっている印象です。その中には、経営者が自社に翻って考えるべき事件も交じっているように思います。例えば、7月18日に発生した「京都アニメーション放火事件」、8月10日に発生した「常磐自動車道あおり運転暴行事件」、8月14日に発生した「佐野サービスエリア従業員ストライキ事件」などです。
京都アニメーションの放火は、とても痛ましい事件でした。報道によれば、数年前から作品への批判や社員への殺害予告が相次いでおり、警察や弁護士に相談したりするなどの対応をしていたといいます。たまたま事件当日の11時から取材が予定していた関係でセキュリティを解除しており犯人の侵入を許してしまったようです。せっかくのセキュリティシステムも解除してしまえば何の意味もなく、経営陣と現場従業員との間で危機管理意識の差があったのかもしれません。一瞬の油断で有能な人材を35人の喪ったことは痛恨の極みです。果たして、セキュリティ運用に例外を設けるべきでしょうか?
常磐自動車道あおり運転殴打事件については、経営者含め自動車を運転する者みんなが明日は我が身に降りかかるかもしれないとの認識を与えてくれた事件と言えるでしょう。
高速道路上に停車させられ、話し合う時間もなく殴られています。実際にこういう人間もいる、という前提で対策しておく必要がありそうです。話せば分かるなんて空想は捨てましょう。
本当に、一寸先は闇です。ニュースで流れる事件をただ消費するだけでなく、どんなことが起こるとどんな対応が必要になるのか、自社の中で見落としている・意識が向いていなかった部分はないか、できる対策やかけられるコストはいくらか、など少しでも自社のリスク対策に活かせる要素を見つけられるようアンテナを立てておきましょう。 リスク対策の要諦は、「考え得る最悪の事態は何か」という想像力にあります。
BisNavi201909月号掲載
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佐野SA従業員ストライキ事件
今回は、最近ではちょっと珍しいストライキ(今年8月14日から9月23日まで)事案を取り上げてみます。
栃木県の佐野サービスエリアは、佐野ラーメンというご当地グルメが人気で、年間利用者数は170万人にも上るといいます。この佐野SAの運営をNEXCO東日本から委託を受けているのが、ケイセイ・フーズという会社です。このケイセイ・フーズの親会社の不安定な経営状態を銀行が懸念して6月の新規融資を凍結したことで信用不安が生じ、7月頃から商品の納入がなくなるという異常事態に陥っていたため、納入の回復を企図して支払サイトの前倒し(翌々月末→翌月末)を担当部長が提案し、社長了承のうえで取引先との覚書を作成したところ、安心した取引先から商品納入が再開されました。ところが、社長がこの覚書を反故にしたいと言い出し、担当部長が反発したら一方的に解雇されたことを発端として、従業員が、「社長の経営方針にはついていけません。解雇された部長と支配人の復職と経営陣の退陣を求めます。これは従業員と取引先の皆さんの総意です。」と書かれた紙を貼り出し、かき入れ時であろう今年8月14日からストライキ(フードコートや売店の営業拒否)に入った、という経緯です。
ストライキとは、「労働条件の維持改善を目的に労働者が労務提供を拒否し、通常の業務を阻害する行為」のことで、労働関係調整法第7条に定める争議行為の一種とされています。会社側と対等な関係で交渉することは難しいことから、要求の実現のための手段としてこうした団体行動でプレッシャーを与えることが認められているのです。
今回は、現場に慕われていた男気のある担当部長が呼びかけたので従業員全員が1人の落後者も出さず39日間戦い抜きました。この部長のような人材は得難いものなのに、なぜ排除しようとしたのか理解に苦しみます。 気になる戦いの結末は…経営陣退陣、部長復職で全従業員が新経営陣のもと佐野SAでの営業再開。
BisNavi201910月号掲載
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申告漏れと所得隠し
ラグビーワールドカップ日本代表の勇姿に胸を熱くし、日本各地の台風の爪痕に心痛める、そんな10月でした。ほかにも、全日本テコンドー協会の運営問題や女性タレントのタピオカ炎上騒動など、司法書士目線で切り取ると面白そうなネタが盛りだくさんで、コラム執筆のネタに迷っているところに飛び込んできた有名お笑い芸人による衝撃的な申告漏れ事件。
報道によれば、そのお笑い芸人1人の会社が昨年12月に税務調査を受け、直近3期分約1億2000万円が無申告(申告漏れ)、追徴法人税額は重加算税含む約3700万円、追徴消費税・源泉所得税は約6500万円、会社経費として計上した旅行代・洋服代・時計代など約2000万円が個人的な支出として所得隠しと認定され、さらに加入義務のある社会保険に未加入かつ未納、個人所得も無申告と、まぁやりたい放題です。
重加算税は、「仮装」「隠ぺい」「架空取引」「虚偽記載」「売上除外」など不法行為と言えるような悪質・意図的・積極的な行為
がある場合に課されるペナルティです。3期分の無申告については意図的なものではなかったとの判断でしょうが、所得隠しとされた個人支出分については隠ぺい工作などがあったのかもしれません。
きちんと申告納税されている皆様からすると、無知・無頓着にも程がある、といったところでしょうか。それにしても、改めて税務調査の恐ろしさや調査で何かあったときの税金のインパクトが計り知れないことを見せつけられました。真面目にやるべきことをやっておくのが一番ですね。
これは、税務申告だけでなく、社会保険や登記など会社で義務付けられていること全般に同様のことが言えます。この機会に、法令で義務付けられていることは何か、それはいつする必要があるのかなどについてリスト化しておくことをお勧めします。意外な見落としが見つかるかもしれませんよ。
BisNavi201911月号掲載
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薬物はダメ。ゼッタイ。
合成麻薬「MDMA」を所持していたとして麻薬取締法違反容疑で某有名女優が逮捕され、覚せい剤所持で何度目かの逮捕をされた元タレントTと、薬物に関する事件が注目を浴びています。芸能界から毎年のように逮捕者が出ますので、まぁあまり驚かないというか、あぁまたか程度の感想しか出てこないところがあまりよろしくないですね。
まるで遠い世界の出来事のように感じるかもしれませんが、福岡県警では平成30年中に959人を薬物犯罪で検挙しています。被検挙者は、薬物常習者の実数からするとごく一部ですから、覚せい剤や大麻等は私たちのすぐそばで蠢いていることがわかります。
もし、社員が薬物事案で逮捕されたとしたら…どのような影響があるでしょうか?
薬物乱用で逮捕された場合、会社も家宅捜索の対象となりますから、社内外の業務に影響が出るのは明らかですし、会社のイメージダウンや社会的信用に傷がつくことも容易に想像がつきます。さらに、売人から脅されて又はお金を工面するために社内の個人情報や秘密情報を売ることも考えられます。
では、会社が事前に何か薬物問題の対策をしておくことはできるのでしょうか?
思いつくのは、①社内教育②薬物検査③就業規則の充実あたりです。①②は薬物事件を起こさない対策で、③が起きてしまってからの対策となります。就業規則では、薬物の所持・使用を禁止することはもちろんのこと、そのような事態に直面した時に会社としてどのような懲戒を課すのかについて明確にすべきです。ただし、社内に周知させないと効力を発揮できませんから、全社員への周知徹底が必須ですし、重すぎる処分をすると裁判で無効とされる可能性がありますので、お気をつけください。
薬物中毒者は見た目では判断がつかないものの、生活環境や生活リズムがズレてくるとのことですので、あれ?と思ったら注意深く観察しましょう。薬物は、ダメ。ゼッタイ。
BisNavi201912月号掲載
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行政廃棄物の転売事件
おけましておめでとうございます。私は、その時々の事件やTVドラマから事業経営のリスクとなり得るネタを取り、法律と絡めて記事を書いています。2019年は、バイトテロ、皇位継承、ドラマ「集団左遷」、副業解禁、闇営業、あおり運転、ストライキ、芸能人の申告漏れや薬物問題などがありました。今年も時事ネタを中心として気軽に読めるよう心がけますので、引き続きよろしくお願いします。
さて、新年一発目は、12月6日に報道された「廃棄物の転売」事件です。神奈川県庁のサーバーに使用されていた旧HDD(ハードディスク)のリース契約終了に伴う交換に際して、HDDの廃棄を委託されていたIT機器会社ブロードリンクの社員が、そのHDDを無断で持ち出しネットオークション(ヤフオク)で転売したところ、購入者が、納税記録などの超重要個人情報を記載した大量の行政文書を発見したという事件です。
逮捕された従業員によると、入社した2016年から転売を始め、転売した記憶媒体は3904個に及ぶとのことです。ブロードリンクは時間外労働や無茶な営業ノルマが蔓延しており、元社員や現役社員による労働基準監督署への駆け込みが絶えなかったという証言もあります。転売した従業員が悪いのはもちろん、会社も廃棄物を簡単に持ち出せるずさんな管理体制や過酷な労働環境の改善をしなかった点で問題がありますし、委託した神奈川県側も、契約に明記されたデータ消去証明書等の確認をしておらず、お粗末としか言いようがありません。総じて、当事者の誰もが「他人事」「無責任」だったと思います。
廃棄処分品や紛失物は、ネット上で気軽に売り買いされている現状があります。御社では、顧客情報や個人情報の管理は、どういう体制で行っていますか?よもや、社員の善意に委ねているなんてことはありませんよね?そもそも流出し得ない、流出しにくい、流出経路を追える、そんな仕組みを作ることが経営者の仕事かなと。
BisNavi202001月号掲載
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ネット上の悪意に対峙する
昨今、ネット上でトラブルに巻き込まれる企業が増加傾向にあるようです。先日ある会社から、「ネット上で自社の検索をしてみたら、誰かが一方的に自社のサービス、商品のことや顧客対応のことなどで批判的なことを書いているのを見つけて困っている」という内容の相談を受けました。書かれているような顧客対応などは一切しておらず事実に反する内容で、明らかに嫌がらせだと分かるということでした。
今や、ネット上で誹謗中傷された(根拠なく罵り貶めたり、悪口を述べること)というのは珍しくありません。怖いのは、悪い評判ほど一度出回ると消すのが難しいという点です。じわじわと広範囲に広がったものを消すには莫大な時間と労力を要することになるうえ、たとえ対処を行ったところで本当に根絶できたという保証はありません。
このようなことから、ネット上で書かれたことは消せないため鎮静化するまで放っておくしかないと言われることも多いですが、放置という対応は適切とは言えないでしょう。ネットで得た情報は世代が若くなるほど信じやすい傾向にあり、企業や商品等を検索した際にネガティブな噂がある以上、火のないところに煙は立たないということで、そういう企業だと捉えられてしまいます。
ですから、企業の評判を落とす書き込みに対しては、片っ端から対応する必要があります。基本的には、サイト管理者やサーバ会社などにオンラインフォームやメールで削除依頼をすることになります。送信防止措置依頼書を郵送することもできます。また、書き込んだ本人を特定するためプロバイダ責任制限法に基づく「発信者情報開示請求」も並行してやっておきたいところです。他に、削除仮処分という裁判手続きも検討できるところでしょう。
面倒とは思いますが、放置していても社会的不利益を受けるだけですので、真正面から対峙して戦うのが吉です。
BisNavi202002月号掲載
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新型コロナウィルスに思う
新型コロナウィルス。1月は、日本全体が「そんなウィルスが流行っているのか、かかった人は気の毒だなぁ」くらいの認識だったものが、2月末には国家を挙げての対策が進められ、イベント等の自粛・開催延期ムードが広がり、オリンピックの開催も危ぶまれる事態となっています(二月二十六日時点)。
確かに経済的には大打撃でしょうが、世界的に感染者と死亡者が拡大傾向にある中で何を優先するのか、政治家はじめ国民の良識が問われているのかもしれません。
今回と似たようなことは、9年前の東日本大震災で日本は経験しています。あの時も経済活動の自粛ムードに包まれ、「不謹慎」なる言葉が蔓延しました。その時の経験は、経営の危機管理に活かされているでしょうか。皆さん立派な経営者ですので、おおよその一般人と違って、きっと「自分は大丈夫」的な現実感のない残念な思考はされてないと思います。今回は、今まで備えてきた答え合わせをして、より改善できる機会がきたと前向きに考えられるのではないでしょうか。
逆に今まで何も対策してこなかった、もしくは大事だとは思うけど後回しにしていた、という方がいたとしたら、自社のことを考え直す機会だと捉えてはいかがでしょうか。例えば、社員が出社できない事態に備えてテレワーク化を抜本的に進めたり、一時的な対応としてこのようにするというマニュアルを定めたり、営業手法を改めたり、就業規則を改訂したり…やることはたくさん見つかるはずです。やるべきことをリストアップしたら、後は優先順位をつけて計画的に進めるしかありません。経営者が先頭に立って。
危機管理・リスク対策の要諦は、「考え得る最悪の事態は何か」という想像力にあります。現実に今起こっていることは、また起こり得ることでもあります。喉元過ぎて熱さを忘れませんように。
BisNavi202003月号掲載
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朗報!売掛金等が回収しやすく
新型コロナウィルスの猛威はとどまることを知りません。オリンピックは1年程度延期となり、東京では感染者が増え続け、政府は緊急経済対策で現金や商品券の給付を検討中のようです(3月27日時点)。
さて、そんな中、4月1日から改正民事執行法が施行されました。普段なじみのない法律かもしれませんが、中小零細企業にも影響の大きい改正がなされています。
通常、売掛金(売買代金やサービス代金など)や貸付金があっても、相手方が任意に支払ってくれなかったら、最終的には裁判をして判決を得てから強制執行(預貯金、給料や不動産などの差押)をする必要があります。
勝訴判決を得れば裁判所が強制的にお金をむしり取ってくれる、などとよく誤解されていますが、実際にそういうことはなく、強制執行の申立の際に「●●銀行●●支店に対する預金債権」「所在地番●●の土地」などのように相手方の財産を具体的に特定する必要がありました。しかし、普通は相手が持っている財産のことなど知りません。ですので、今まではせっかく勝訴判決を得ても泣き寝入りせざるを得ない、相手の財産がわからないために訴訟そのものを躊躇するというケースが多くありました。
そこで、今回、相手方への強制執行をしやすくするために、①財産開示手続が拡充(罰則強化・申立権者拡大)され、また②不動産・給与・預貯金に関する情報取得手続が新設されました(←ここが非常に大きい)。
国は、自分で強制的に相手からお金を徴収することを禁じて、裁判所を通じた手続による徴収を規定しておきながら、勝訴判決を得た当事者だけが厳しい現実に直面せざるをえませんでしたが、ようやく泣き寝入りをしなくてもよくなるような実効性のある規定ができました。
もし紙切れだけの判決を持っておられる方がいらっしゃったら、強制執行を検討してはいかがでしょうか。ただ、財産を持たない相手方からはむしり取れませんので、その点は注意が必要です。
BisNavi202004月号掲載
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不安につけこまれるな
国民生活センターのホームページで、新型コロナウィルスに便乗した悪質商法等に関する注意喚起がなされています。4月23日現在で寄せられた相談は、実に1万8703件。
事業や生活について不安に思う心理や、助成金や補助金などで得をしたい・損をしたくない心理を巧みに利用する詐欺師は、今が一番の稼ぎ時と思ってほくそ笑んでいることでしょう。
普段ならば、まず引っかからないことも今回のような異常事態では正常な判断力を失いがちです。あの手この手でだまそうとしてきますから、何も考えずにURLや添付ファイルを開かないこと、判断を急がせるものは疑うこと、できる限り一次情報に当たるなど慎重のうえにも慎重な判断と行動を心がけるだけでもだいぶ違います。
ちなみに、国民生活センターに寄せられている相談内容は、次のようなものです。
●マスクを無料送付するので確認をお願いします、と記載されURLが付いたメールがあった。
●新型コロナウィルス流行拡大の影響で金の相場が上がるとして金を買う権利を申し込むように言われた。
●ワクチンを開発していると主張する企業への投資を求められた。
●不審なマスク販売広告メールが届いた。
●携帯電話会社名で助成金配布が決定したとのメールが届いた。
●新型コロナウィルスの検査が無料で受けられるがマイナンバーが必要との電話があった。
●行政からの委託で消毒に行く、という電話がかかってきた。
●水道に新型コロナウィルスが混ざっているので除去すると不審な電話があった。
●配水管が新型コロナウィルスで汚染されている、というチラシが入っている。
●新型肺炎に下水道管が汚染されているので清掃します、とのSNSが届いた。
気持ちは十分わかりますが、事業者である皆様は、特に、お金関連のことにはすぐ飛びつかないようにご注意を。
BisNavi202005月号掲載
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自粛警察
ようやく緊急事態宣言が解除され、それまでの日常により近い形で生活や仕事ができるようになりました。この2か月、程度の差はあれ国民等しく不自由を体感しました。本当にお疲れさまでした。ただ、第二波がいつ訪れてもおかしくないため、まだ「自粛」は続きますので、自分や家族、従業員、取引先のためにも注意深く行動しましょう。
緊急事態宣言後に、行政による外出や営業などの自粛要請に従わない又は応じていないように見える個人や商店などに対して過剰に反応し、歪んだ正義感、不安感、嫉妬心などから私的に取り締まりを行う一般人(暇人)が一定数現れました。自分の意思で行動を慎む自粛なのに、匿名で他人の行動に干渉し無理矢理自粛に応じさせようとする行為は、どうにも卑怯で不快感しかありません。
もし不幸にも自粛警察に攻撃された場合、彼らの行動は、軽犯罪法、威力業務妨害罪、強要罪、侮辱罪などの罪に問われる可能性がありますし、民事でも不法行為に基づく損害賠償請求を受けることになりますので、しっかり証拠を残しておくようにしましょう。
それはそれとして、石川県の山代温泉街の温泉宿「森の栖」が面白い宿泊プランを立ち上げているのはご存知でしょうか?その名も「自粛警察の皆様お疲れ様です!プラン」。そのリード文が振るっていますので、読んだことのない方はぜひご一読をお勧めします。
正義の組織「自粛警察」と持ち上げつつ、必殺技の「スローストーン」「ハリガミカッター」「テレフォンサンダー」「SNSファイヤー」を駆使して取り締まる、とユーモラスに皮肉を込めていて、そんな正義感あふれ出し過ぎている自粛警察の皆様に安らぎを提供して丸くなってもらい、最後には宿泊代の50%を医療従事者とその家族に寄付をすると締めくくられていて、とても好感が持て上手だなと感心します。
大変な状況なのは誰も同じなので、他人の事情を慮って優しくありたいですね。
BisNavi202006月号掲載
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印鑑はいらない?
法人では、社内規定やセキュリティ上の理由で社外に持ち出せないことも多く、社内文書の上長決済の証として印鑑が必要とされることもあります。「はんこ」は、我が国での生活や仕事に根ざした文化・慣習です。
ところが、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う外出自粛要請中、TVリポーターが道行く人に外出理由のインタビューしたときに「押印するために出勤しています」と回答した方がいたことで、社員を感染リスクにさらしながら出社させるとは何たる前近代的な考え方だ!臨機応変に対応すべき!いつまで印鑑を使い続けるのか!といった、いわば印鑑否定論がにわかに沸騰しました。
GMOインターネット㈱や㈱サイバーエージェントなど大手IT企業が次々と印鑑廃止の意向を表明し、IT担当大臣が「はんこのための出社はやめるべき」と発言し、経団連の会長が「はんこはナンセンス」「デジタルの時代に合わない」と語るなど、今や印鑑はすっかり悪者になりました。
私の仕事は印鑑とともにあり、切っても切り離せないものです。確かにビジネスの場面ではスピード感も重要ですから、いちいち印鑑を押すのに時間がかかり煩わしい、電子署名でスパッと進められると良い、という意見はよくわかります。法律上、契約ごとは当事者の意思の合致さえあれば成立しているのであり、押印はもちろん書面の作成さえ要件とはされていません。
ただ、押印は、最終的には裁判での有用性があります。6月19日に内閣府・法務省・経産省の連名で「押印についてのQ&A」というペーパーが出て、訴訟上の取扱いや証明などのルールが非常によくまとまっておりました。非常に価値があります。というより、これは経営者なら知っておくべき情報です。
それにしても、電子署名等のITに対応できない法人が数多いと推測されますから、まだまだ印鑑は手放せないでしょうね。
BisNavi202007月号掲載
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自筆証書遺言書保管制度は使える?
令和2年7月10日から「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしました。
読んで字のごとく、自分で書いた遺言を申請があれば法務局が保管する、というもので、新制度を利用すると遺言者が死亡したときに相続人が家庭裁判所で「遺言の検認」という手続をしなくてよくなります。
新制度が始まる前までは、自分で書いた遺言は自分で自由に保管してください、ということになっていましたので、次のようなトラブルが発生しておりました。
①紛失(誰かに遺言をしたと話していたものの見つからない)
②隠匿・破棄(先に読んだ相続人にとって都合の悪い内容なので隠してしまう又は捨ててしまう)
③改ざん(相続人が自分にとって都合の良いように書き換えて・書き加えてしまう)
④後日発見(遺言をしまい込んでいて、遺産分割協議が成立した後に発見される)
⑤内容不備(内容が不明確であったり法律上実現しようのない内容であったりする)
新制度で上記の①~④は防げるようになりましたので、改善が図られたのは確かです。が、一番重要なのは⑤であり、下手に書いてしまうと、余計相続人が揉めるという事態になりかねませんから注意が必要です。
個人的には、遺言の検認手続を家庭裁判所に行う必要がなくなったのは、とても大きな改正点と思っています。検認手続は難しくはないものの、時間がかかるし、終わるまで相続手続に手が付けられないし、アレコレ心理的負担もかかる厄介な代物です。これをすっ飛ばせるのは、大変素晴らしいことです。
ですので、専門家の助言を得て書いた遺言であればこの制度は大いに使えるけど、そうでなければ微妙なところだなという感想です。
コロナで、私たちの日常は簡単に崩れるということを目の当たりにしました。これを機に、何か備えておくことはないか少し考えてみてはいかがでしょうか?遺言に早いも遅いもありません。経営者は、必ず書いておきましょう!
BisNavi202008月号掲載
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その保証人、大丈夫?
新型コロナウィルスが鎮静せず、GOTOキャンペーンは大誤算…感染防止と経済再開の両立に苦慮していたところに飛び込んできた安部首相の辞意表明。政治的空白や政策の一時停滞の可能性まで浮上し、より一層先行き不透明感を増した8月でしたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?ご自身の未来予測に基づく自助努力を続けるしかありませんね。
さて、前置きはこのくらいにして、今年4月1日から改正民法が施行されたことに伴う注意喚起が今回のテーマです。
事業に関連して交わす何らかの契約(取引基本契約、売買契約、リース契約、賃貸借契約など)のときに、もしもに備えて保証人を取る、すなわち保証契約条項が入っているケースは多々あります。この「保証」が大きく変わりました。次の一文、よく契約書に入っていますが、何か問題があるでしょうか?
「丙(保証人)は、本契約に基づき乙(借主等)が負担する一切の債務を連帯して保証する。」
ん?これの何が悪いの?という方、危険です。保証人が個人の場合、4月1日以降は、この文言での保証契約は「無効」となりました。せっかく保証人を付けたのに、まったく意味がないことに…。押さえておくべき特に重要な改正点は、次のとおりです。
①保証の上限額を定めることが必須
…定めてなければ効力を生じない
②保証人に対する情報提供が義務化
…情報提供していない・虚偽の情報を提供していたら、保証人は取り消せる
他にも事業者にとってリスクある改正点はあるのですが、ご自身が保証人を提供してもらう側の事業者なら、少なくとも上記の2点だけは頭に入れておくようにしましょう。ちなみに、4月1日以降に締結された契約、には原則として契約の「更新」も含まれますから、自動更新条項が設けられている場合は、契約書の改訂なども検討が必要となるでしょう。
BisNavi202009月号掲載
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メルマガのお作法
毎日のようにいろんなメルマガを受け取っておられる方が多いのではないでしょうか?自分で好んで登録したものならともかく、一方的に送り付けられるものも少なくありません。見ない、削除する、配信停止する、などを行えばどうってことなさそうなのに、なぜかイラっとしてしまう自分がいます。
さて、事業者にとっては、メルマガは効率の良いマーケティングの一環と思いますが、事業者から顧客等に向けた、サービスや商品等の宣伝・広告を含むメルマガ(キャンペーンやニュースレターなども対象)を送る際には、気を付けなければならない「特定電子メール法」というものがあります。
この法律は、迷惑メールを規制するためのものですので、違反しないためには次の3点をクリアしておく必要があります。
1.メール等を送信する前に、「同意」を得ておくこと
2.メール内で、配信停止の方法をはっきりさせておくこと
3.送信者に関する情報(住所・名称・氏名・問合せ先)を表示しておくこと
もし違反した場合には、所管庁から「措置命令」が出され、かつその違反企業の情報も公開されます。さらに、措置命令を無視すると刑事罰(懲役または罰金)の対象にもなってしまいますから、軽視するのは危険です。
では、名刺交換しただけの相手にメルマガ等を送るのは大丈夫なのでしょうか?結論から言うと、名刺交換の態様やメルマガ等の種類や送信頻度などによるものの違法でないケースが多い、です。名刺などの書面にメールアドレスが記載されている場合には、明確な同意がなくても広告・宣伝のメルマガ等を送信することが認められております。
メルマガ等は時に不快にも感じる厄介なもので、下手すると信頼を損ねる可能性もあります。お作法を守って健全にメルマガ等の配信を行いましょう!
BisNavi202010月号掲載
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コロナ感染者に対する損害賠償自動下書き
令和2年10月28日現在、福岡県内の新型コロナウィルス感染症の発生状況は、患者数累計5202名、うち退院者5033名・死亡者101名・入院中68名と発表されており、10月28日までの直近1週間の陽性者数は38名ですから、福岡県においては、ほぼ収まってきているとみられます。ただ、ご存知のようにGOTOトラベル・GOTOイート・GOTOイベントなどの政府による経済政策が進められていますから、今なお予断を許さない状況です。
こうした状況下、「もし業務中に従業員が顧客に新型コロナウィルスをうつしてしまった場合、会社に何か責任は発生するのか?」「逆に、顧客から従業員がコロナをうつされてしまった場合はどうか?」などのご相談が寄せられることがあります。
従業員がコロナウィルスに感染した場合、事業者は保健所への報告が必要で、事業所内の消毒や感染者周りの濃厚接触者の自宅待機などを余儀なくされることがあるため、一時的な事業縮小や停止につながります。一度感染者を出してしまうと、風評被害による売上減少などが現実味を帯びますから、損害を誰かに賠償してもらいたいのが人情でしょう。
気持ちはわかりますが、結論から言うと、自分が新型コロナウィルスに感染していることを知っていながら外出した、又は濃厚接触者とされ自宅待機が必要にもかかわらず急用でもないのにあえて外出したなどの事情+その従業員又は顧客から直接感染したということを立証できない限り(だって、別の無自覚感染者から感染したかもしれませんから)、損害賠償請求が認められる可能性は低いです。
誰にも責任を問えないとなると、経済活動を継続するためには感染予防の対策がとても重要であることは明らかです。福岡県では業種別の「感染防止対策チェック項目」を発出していますから、最低限この内容は行うように徹底しましょう。
BisNavi202011月号掲載
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法的リスクへの備え
世間一般的には、「新型コロナウィルス感染症」一色の年であったように思いますが、皆さんにとっては、今年はどんな一年だったでしょうか?
さて、2011(平成23)年8月号から始まったこのコラム「転ばぬ先の方の杖」ですが、今月号をもって卒業とさせていただきます。これまで記事をご覧になっていただいた皆さん、本当にありがとうございました。少しでも何かしらお役に立てたことがあったとしたら、これに勝る喜びはありません。
日々の司法書士の業務の中で、いらぬトラブルに巻き込まれている事例、知らなかったがために大変な損をしている事例、悪意なく法を犯している事例などをたくさん見ていますので、できるだけ時事ネタに沿う形で通常は気にすることのない法的な観点について解説を加えてまいりました。若造が書くことですからすんなり目に入ってこなかったり、説教臭く感じることがあったかもしれません。ただ、全ては、将来起こり得る法的なトラブルの芽を事前に摘んでおいて欲しい、情報を頭の片隅に残しておいて欲しい、と願ってのことですから、何卒ご容赦ください。
人間、その時が来て初めて、「あぁ気を付けておけばよかった、予防しておけばよかった、先に聞いておけばよかった」と後悔します。確かに、リスクに備えるのは大事だと皆さん頭でそれとなく理解はしていますが、目の前に迫っている危機ではありませんので、忙しい中どうしても対応行動の優先順位が下がってしまいます。それはよくわかりますので、せめて、①法的に大丈夫かと自分に問う自問行為、②リスクが顕在化した時にどうなるか考える想像力、③気になることを聞ける専門家とのつながり、を持っておいていただきたいと思います。
法的リスクに備える意識、大切です。
BisNavi202012月号掲載