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相続

遺産分割協議前の預金の引き出し②

こんにちは。福岡市西区の司法書士井手誠です。
飛び石のゴールデンウィークに入りましたね。
あまり天気良くないのが残念ですが、まとめて休めるこの時期はやはり心楽しいものです。
気の向くまま、車を使わずあちこち行ってみようと思います。

さて、前々回(遺産分割協議前の預金の引き出し①)は、遺産分けの話し合い(遺産分割協議)の成立前に自分の法定相続分だけの払い戻しを請求しても、金融機関の実務上は引き出せないことがほとんどであることと、推測されるその理由を書きました。
今日は、法律や裁判上、自分の法定相続分の払戻しについてどのように考えられているか見ていきます。

1.民法896条では、相続財産(遺産)について以下のように規定しています。

「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」

ですから、預貯金が相続財産に含まれるのは間違いありません。

2.相続財産は、有効な遺言が残されている場合は、その内容が最優先されます。遺留分を侵害していても、遺言そのものは有効です。

3.有効な遺言が残されていない場合は、法定相続分(民法900条)に応じて相続することになります。

4.ただし、相続人全員の話し合いによって、その割合を変えたり、誰がどの遺産を相続するかを一つ一つ決めることができます(民法907条)。
なお、判例上、遺産は、遺産分割協議が成立するまでは、相続人全員の共有状態となり、その性質は、相続人各自が処分できる持分であると解されています。

5.では、遺産分割協議が成立する前に、はたして預貯金の払戻しが請求できるのでしょうか?

6.以下の裁判例を見てみましょう。

※最高裁 昭和29年4月8日判決
「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする。」

※東京地裁 平成18年7月14日判決
「相続人が数人ある場合、遺産に属する普通預貯金債権は可分債権であるから法律上当然に分割され、各共同相続人はその相続分に応じて権利を承継し、その払戻請求権を行使できる。相続開始後遺産分割協議成立前においては、金融機関が共同相続人全員の同意に基づき、その全員に対して一括して預金の払戻しを行う、という事実たる商習慣は存しないし、顧客であった被相続人がかかる商習慣に従う意思を有していたとは認められない。」

7.よって、裁判例からみた結論としては、遺産は相続人各自が処分できる持分である、と解されていますから、分けられる遺産については、相続が発生した瞬間に当然に分割され、それぞれの相続分に応じて承継されることになり、たとえ遺産分割協議が成立する前であっても、自己の相続分に応じた預金払戻しを金融機関に主張して構わないということになります。
ただ、金融機関実務としては、払戻しの請求にに応じないところがほとんどですので、もし、金融機関が応じない場合は、訴訟を提起することになるでしょう。

8.ところで、誤解を受けやすい部分なのですが、現金や預貯金については上記裁判例のように解されていますから、実は、遺産分割の対象にはならないのです。

もっとも、厳格にこの考え方を取ると、遺産分割協議がうまく進まないことが多いですから、相続人全員の同意で話し合いの対象となる財産に含めてしまい、柔軟かつ公平に解決している、というのが一般的です。

以上、ご参考までに。長文をお読みいただきありがとうございました。

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