中小企業の事業承継③
中小企業の事業承継に着手するとき、株式会社であれば、経営者が多くを所有する自社株の移転(後継者への売買や贈与)の問題に行きあたる。
後継者には、経営権確保のために、十分な議決権(会社の重要事項について賛成や反対できる権利)を得られるだけの株を与えることが望ましい。しかし、様々な利害関係人(推定相続人・経営幹部・税務署・取引先など)の思惑が絡んで、なかなか一筋縄ではいかないのが現状だ。
私の遭遇した例をいくつか挙げてみる。
1 経営者の財産が、主に会社の株しかなく、後継者以外の相続人に対しても株を与えざるを得ないケース(相続人から遺留分を請求される可能性があるから)
2 後継者がまだ心もとないので、後継者に全ての株を渡すのに抵抗があるケース
3 創業からずいぶん成長したので、株価が創業時の3倍になっていて、後継者に株を渡す際の課税関係に問題があるケース
これらの場合に、解決の一手法として用いることができるのが、「種類株式」だ。内容の異なる9種類の株で自社の状況に合わせて自由に設計することができる。また、非公開会社では属人的株式も利用できる。
例えば、ケース1では、現経営者の株を①普通株式と②剰余金配当優先無議決権株式の2種類に分け、後継者には①を、経営にタッチしない推定相続人には②を渡すことが考えられる。こうすることで、後継者は経営権を確保でき(余計な口出しをされない)、推定相続人は会社が儲かれば一定の利益を享受できるカタチになるので、ウィンウィンの関係を築くことが可能だ。
単に株の移転の問題だけでも、上記の経営権確保・争族予防に加え税金面での検討も必要である。通常は、他に取引先や社内の対策も必要となるため、事業承継は時間がかかる。何度も言うようだが、対策は経営者が元気なうちに進めておくのが肝要だ。
BisNavi201303月号掲載