自社株信託のススメ①
去る平成19年9月30日、従来に較べ多様化・柔軟化が図られた新信託法が施行となった。
この法律を用いて、中小企業庁から公表されているスキームの一つに「遺言代用信託を活用した自益信託」というものがあり、これを応用したものが事業承継で活用できる「自社株信託」である。ちらほらと雑誌や新聞などで記事が出ているので、目にしたことはあるかもしれない。
中小企業の事業承継の場面では、オーナー社長が持つ自社株を、いつ、どのような手法でどの程度を後継者に移転するか、に頭を悩ますことが多い。株式は、会社の経営権の裏づけとなるものであるから、おいそれと手放すことに抵抗感はある(株を後継者に握られると役員の地位が危うくなることもある、後継者の経営判断・手腕にやや不安が残るなど)ものの、株式の時価評価額の絡みで、税法上もっともメリットがある時期に移転したいのも人情であろう。
ところで株式は、「経営権」と「財産権」の二つの性質を持つ。したがって、株をオーナー社長から後継者に移転するとき、税法の観点からの検討やキャッシュアウトができるだけ少なくなるようなプランニングが欠かせないし、オーナーの意識もそこに向いていることが多い。一方、経営権の観点から見ると、経営判断の停滞を招かない円滑な株式の移転と、経営の安定のための後継者への集中を図ることが重要と考えており、そのための手法を検討することになる。株式を移転する手法そのものは、贈与・売買が一般的だが、これに遺言を組み合わせることもあるし、株を種類株に変更した上で贈与・売買・遺言を行うことも考えられる。
上記の移転の手法に加えられるのが、冒頭の「自社株信託」スキームである。事業承継を考えている経営者は、必ず一度検討することをおススメする。信託の内容については次回詳述する。
BisNavi201410月号掲載