自社株信託のススメ②
事業承継は、企業経営の大きな課題であるにも係わらず、手当てをしている中小企業は数少ない。後継者候補がいない、利益が乏しい等の理由がある場合はさておき、そうでないときは早急に着手することが望ましい。その際に頭を悩ますのが株の移転である。
自社株は経営権・財産権の二つの側面を持つから、現経営者が一括して移転するのには勇気がいる。じゃあ、その二つを分けて対処しよう!というのが、自社株信託だ。
信託とは、簡単に言うと、財産の「所有者」の持つ財産を、「管理者」に移転し、その受託者が管理又は処分して得る利益を、「利益享受者」に渡す契約である。登場人物は原則この三者だが、所有者が利益享受者を兼ねることもできるし、所有者が管理者を兼ねてもよい。(ただし、所有者=管理者=利益享受者の形態は原則NG)しかも、契約内容そのものは、かなり柔軟に設計できる。
例えば、自社株の評価額が低いうちに後継者に株式を移したいが、経営権は手元に残しておきたい、と思っていたとしよう。信託契約を使うと次のような設計が考えられる。
1.プランA(将来型)
株式を①財産としての受益権②経営権、に分け、株式の所有権は後継者(管理者)に移転し、①②は現経営者(利益享受者)に残した上で、①を評価額が低いうちに後継者に売買・贈与し、②は現経営者の死亡や認知症を理由として後継者に渡す、という設計
2.プランB(即効型)
株式の権利を2つに分けることはプランAと同じだが、管理者をそのまま現経営者とし、①の利益享受者を後継者、②を現経営者に残す、という設計
他にも、現経営者に相続人が複数名いるときは、別途法人を設立して管理者とし、①は各相続人を利益享受者にする、など遺留分に配慮した設計もでき、個々に置かれた事情に応じた対応が可能だ。
自社株の移転や事業承継を考えるときに、信託があったなと思い出して頂ければ幸いである。
BisNavi201411月号掲載