元従業員による顧客情報持ち出し
ある会社の社長から「退職した従業員が顧客情報の一部を持ち出して、再就職先で利用しているようだ」との相談を受けました。
厳重な情報管理をしている会社でしたから、データの持ち出しではなく、勤務中に隙を見てメモをしていたくらいとのことでしたが、会社の信用にかかわるため、発覚早期にきちんと対処する必要があります。
では、元従業員に対して、法的にはどのようなことができるのでしょうか?
①不正競争防止法
顧客情報が営業秘密(秘密として管理されている事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの=顧客情報も適切に管理されている限り営業秘密と考えられる)にあたる場合、同法を利用して差止請求や損害賠償請求ができる可能性があります。
②民法(債務不履行)
要件を満たさず不正競争防止法を利用できない場合は、民法の規定を使うことになります。労働契約や就業規則で、業務上の秘密保持義務が具体的に課せられていると認められているときは、民法415条に基づき、差止請求や損害賠償請求を行うことができると考えられます。
③民法(不法行為)
もし労働契約や就業規則で明確に秘密保持を約定していない場合であっても、不法行為に該当するときは、民法709条に基づき損害賠償請求することができると考えられます。
一つ裁判例を紹介します。美容室の店長だった元従業員が顧客カードを持ち出し、会社が損害賠償を求めて提訴した事案で、顧客カードの管理が杜撰と判断されたため不正競争防止法の適用が認められず、不法行為を根拠に損害賠償請求が認められています。
マイナンバーの送付もあって、最近個人情報に関する国民の意識の高まりを感じます。営業秘密(顧客情報含む)の管理に、「完璧」はありませんから、いざというときに法的対処ができるようポイントを押さえた適切な管理を行っておきましょう。
BisNavi201601月号掲載